研究課題/領域番号 |
15J06799
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
羽柴 一久 岡山大学, 環境生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 黄体退行 / Galectin / Sialylation |
研究実績の概要 |
多くの哺乳類において排卵後の卵巣に形成される黄体は、妊娠の成立と維持に必須の黄体ホルモンを分泌する一過性の内分泌器官である。母体の妊娠が不成立の場合、黄体は卵巣から消滅し (黄体退行)、妊娠可能な状態が解除され、次の排卵が起こる。このように妊娠していない哺乳動物の卵巣では、黄体の形成と消失が絶えず繰り返され排卵周期が保たれている。シアル酸は、細胞膜上の糖鎖に付加することで黄体細胞の機能を維持するgalectin-1 の糖鎖への結合を阻害することが報告されている。本研究では、黄体退行期に増加するシアル酸の役割について調べた。卵巣を黄体の肉眼的所見により、機能的黄体 (排卵後 8-12 日目) および後期黄体 (排卵後 15-17 日目) に分類し、それぞれの黄体から黄体細胞を単離した。後期黄体由来の黄体細胞のシアル酸量は、機能的黄体由来の黄体細胞より多かった。また、機能的黄体由来の黄体細胞において、galectin-1 の誘導する生存率の増加が、後期黄体由来の黄体細胞において認められなかった。後期黄体由来の黄体細胞おいて、シアル酸を分解する酵素である neuraminidase によりシアル酸が減少することを確認した。さらに、neuraminidase によりシアル酸を減少させた後期黄体由来の黄体細胞において、galectin-1 による生存率の増加が認められた。これらのことから黄体退行において、黄体細胞のシアル酸が増加することで、galectin-1 の糖鎖への結合が阻害され、生存シグナルが減少することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成 27 年度は、発情周期を通じた黄体組織における糖鎖構造の変化について検討している。その結果、シアル酸および core fucose 構造が顕著に変化することが認められた。さらに、黄体細胞のシアル酸はその発現を増加させることで、galectin-1 の糖鎖への結合を阻害し、galectin-1 の刺激する生存シグナルを減少させることが明らかとなった。また、黄体細胞の epidermal growth factor (EGF) receptor に付加されている core fucose がリガンドである EGF の結合を制御している可能性が示された。以上のことから、平成 27 年度の研究は計画書の通りに進捗しており、前記の成果は、現在 Biology of Reproduction に投稿中である。今後は、EGF receptor の core fucose 修飾について検討し、論文にまとめる。
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今後の研究の推進方策 |
平成 27 年度の成果より、シアル酸の他にも、発情周期を通じた黄体組織において core fucose 構造が、黄体形成期と比較して、黄体退行期に減少することが認められた。また、epidermal growth factor (EGF) receptor は core fucose が付加されており、この core fucose がレセプターとリガンドの結合を制御していることが報告されている。そのため、core fucose 分解酵素である fucosidase を黄体細胞に処理し、EGF を添加したところ、EGF の誘導する細胞生存率の増加が fucosidase 共添加区では中和された。 これらのことより、黄体細胞の EGF receptor に付加されている core fucose がリガンドである EGF の結合を制御している可能性が示された。今後は、黄体細胞の EGF receptor を免疫沈降により回収し、core fucose 糖鎖構造が付加されているか調べる。
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