研究課題/領域番号 |
15J06807
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
鯨井 智也 早稲田大学, 理工学術院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | ヒストン翻訳後修飾 / scFv / 抗体 / X線結晶構造解析 / 細胞内抗体 / ヒストン / クロマチン |
研究実績の概要 |
本研究は、遺伝子発現制御を担うクロマチン動態の解明を目的とする。発生、分化等、多様な過程において動的に変化するヒストン修飾をリアルタイムモニタリングするシステムの構築を目指す。そのために、ヒストン修飾特異的一本鎖抗体(scFv)に蛍光タンパク質を融合し、細胞内でのヒストン修飾動態を検出する修飾特異的細胞内抗体プローブ(mintbody)の開発研究を進行中である。しかし、生細胞内においてscFvの多くが抗原への結合能を失う問題がある。本研究では、リコンビナントとして精製したscFvの性状解析をin vitroで行い、機能的なmintbodyの開発を行う。これにより様々なヒストン修飾のライブイメージングが可能になり、クロマチン動態が明らかになることが期待される。 現在、H4K20me1を認識する15F11-scFvの開発研究が進行中である。前年度は、scFvの抗原認識機構に着目し、ソーキング法によりscFvと抗原ペプチドとの複合体のX線結晶構造解析を行った。また、H4K20me1特異的scFvには、15F11の他に数アミノ酸の置換により細胞内での機能を欠損したクローンが存在する。これらの情報に基づく変異体解析の結果、細胞内でのscFvの機能に重要な残基が明らかとなった。これらの残基がscFvの機能に与える影響を明らかにするため、15F11の高分解能X線結晶構造解析を行った。 また近年、ヒストン修飾とヒストンバリアントの組み合わせの重要性が報告され、ヒストンバリアントを標的としたscFvの開発のためには、その構造及び物理化学的特性を解明する必要がある。そこで、機能未知であったH3.Yについて構造及び機能解析を行った結果、H3.Yは、転写開始点周辺に集積し、緩んだクロマチンを形成する一方で、クロマチンに安定に留まることが明らかとなった。以上の結果から、H3.Yは転写開始点に安定に留まり核内タンパク質がアクセスし易いクロマチンを形成することで、転写の促進を維持するというモデルを提案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
遺伝子発現制御を担うクロマチン動態の解明を目的とし、クロマチンの修飾動態をモニタリングするプローブmintbodyの開発のため、15F11-scFvの高分解能を目指したX線結晶構造解析を行った。その結果、15F11-scFvの立体構造情報を原子レベルで得ることに成功した。本結果により、mintbody開発のための有用な情報が得られることが期待される。さらに、ヒストン修飾と同様にクロマチンの動態制御に重要なヒストンバリアントについても解析を行った。平成27年度は、クロマチンにおける機能が不明なヒストンバリアントH3.Yに着目して、H3.Yによるクロマチンの動態制御機構について生化学的手法、構造生物学的手法、および細胞生物学的手法を用いた解析を行った。その結果、H3.Yは転写開始点周辺に集積して緩んだクロマチン構造を形成することで、転写を活性化するというモデルを提案し、国際的な学術誌に第一著者として論文を発表した。以上のことから、当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の変異体解析の結果から、15F11-scFvの細胞内における機能に重要な残基が明らかとなった。さらに、15F11-scFvについて詳細な立体構造情報を得ることに成功している。そのため、今後は15F11-scFvの立体構造について詳細な解析を行うことで、15F11-scFvの機能に重要な残基が15F11の構造および機能に与える影響について解析を試みる。さらに、15F11-scFvとターゲットペプチドとの複合体の立体構造解析を行うことで、scFvによる基質認識機構を原子レベルで解明することを目指す。
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