研究課題
本研究では、遺伝子発現において経時的に変化するクロマチン動態の解明を目的とする。これまでにヒストン修飾をモニタリングするためのシステムとして、ヒストン修飾特異的一本鎖抗体(scFv)に蛍光タンパク質を融合し、細胞内において発現させる修飾特異的細胞内抗体プローブ(mintbody)の開発研究が進行している。しかし、生細胞内においてscFvの多くが抗原結合能を失うことが明らかになっている。本研究では、試験管内においてscFvの機構解析を行い、その情報を基に生細胞内において機能的mintbodyの開発を行う。これによりクロマチンの様々なヒストン修飾動態の解明を目指す。現在、H4K20me1を認識する15F11-scFvの開発研究を進行している。H4K20me1特異的抗体として、15F11の他に生細胞内において機能欠損の12C8が存在する。これらscFv間における変異体解析の結果、生細胞内での機能に重要な残基が明らかになった。15F11特異的残基が構造に与える影響を明らかにするためX線結晶構造解析を行った結果、これらの残基は抗原認識部位に位置せず、mintbodyのフレーム形成領域において疎水性コア構造を形成することが明らかになった。そこで、抗原に対する解離定数を測定した結果、12C8は15F11と比較して結合親和性が大きいことが明らかになった。以上の結果から、15F11特異的疎水性相互作用が、scFv構造のフォールディングまたは構造安定性を保持し、生細胞内でのscFvの機能を担うことが示唆された。また、ヒストン修飾がクロマチン形態に与える影響を解析する際に必要なポリヌクレオソームの調製法について、分析超遠心法を用いて検討を行った。その結果、クロマチンの高次構造状態を評価する上で重要な知見を得た。さらに、非変性ゲルによる調製法が最も純度の高い精製法であることが明らかになった。
1: 当初の計画以上に進展している
遺伝子発現制御を担うヒストン修飾動態の解明のため、15F11-scFvの機能解析を進めてきた。本年度は、平成27年度から引き続き15F11-scFvのX線結晶構造解析を行い、その結果、1.94Åという非常に高い分解能において構造を決定することに成功した。さらに、平成27年度に明らかになった、15F11-scFvの細胞内における機能に重要な残基に関する情報を基に考察を行った結果、15F11特異的な疎水性の相互作用が細胞内における機能に重要であることが明らかになった。本成果は、今後、細胞内において機能的なmintbodyを作製する上で有用な情報となることが期待される。本成果は、国際的な学術誌であるJournal of Molecular Biology誌に掲載された。また、ヒストン修飾がクロマチン形態に与える影響を解析するために必要なポリヌクレソームの調製法について検討を行い、クロマチン高次構造解析において実験結果を評価する上で重要な情報を得た。本結果は、英文誌であるThe Journal of Biochemistry誌に筆頭著者として掲載された。以上の結果から、当初の計画以上に進展していると言える。
平成28年度におけるのX線結晶構造解析、変異体解析、相互作用解析の結果から、細胞内におけるscFvの機能に重要な性質が示唆された。平成29年度は、これらの情報を基に、他の抗原に対して特異的に結合するmintbodyの開発を試みる。
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