研究課題/領域番号 |
15J06889
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
古川 翔大 山口大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | スパースコーディング / 部分空間法 / IVUS / RF信号 / 冠動脈プラーク |
研究実績の概要 |
急性心筋梗塞や不安定狭心症などの急性冠症候群の主な原因は,冠動脈内に形成されるプラークの破綻によって生じる血栓である.プラークが破綻しやすいか否かは,そのプラークを構成する組織性状によって決定される.医師は血管内超音波法より得られる血管断面画像を用いて血管内の検査やプラークの評価を行う.しかし,この血管断面画像は,反射超音波信号を輝度値に変換した画像であり,不明瞭な低解像度の画像となることが多い.本研究の目的は,血管内超音波法から得られる反射超音波信号を用いて,プラークの組織性状を高精度に同定することである.具体的には,スパースコーディングを用いたプラークの組織性状判別の手法をシステムとして確立する. 当該年度では,スパースコーディングより得られる特徴量を分類するのにより適した新たな識別器を確立するための研究を行った.ヒトの血管に現れるプラークには,線維性組織,脂質性組織及び,その中間に位置する線維性脂質組織が存在する.従来,線維性組織と脂質性組織の分類に関しては,良好な判別結果が得られている.しかしながら,中間組織である線維性脂質組織の存在により,判別性能の大幅な低下が引き起こされる.当初の提案手法においても,この中間組織の存在により,判別性能の低下が見られたため,新たに識別器を考案する必要が生じた.本研究では,スパースコーディングから得られる特徴量の分布を鑑み,部分空間法を識別器として用いることで,高精度かつ高速な組織性状判別を実現した.従来の実験データに対して提案手法を適用することで,その有効性を確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度では,以下のことを行った. (1)スパースコーディングをヒトのデータに対して応用する ヒトの血管に現れるプラークは,線維性組織と脂質性組織が混在して存在するため,組織性状の同定が困難となる.報告者は従来のアルゴリズムを拡張し,ヒトのデータに応用することにより,線維性組織と脂質性組織の分類において良好な結果を得た.この結果は,実験データをまとめ,学会誌への投稿を行った. (2)スパースコーディングから得られる特徴量に対して,より適した識別器を開発する. 実際には,ヒトのプラークは,線維性組織,脂質性組織及び,その中間に位置する線維性脂質組織の3組織から構成される.したがって,より高精度の組織性状判別を行うためには判別手法を拡張する必要がある.その拡張の際に,識別クラスの増加に起因して,認識率の低下が生じる.その認識率の低下を補うために,スパースコーディングにより適した識別器の研究を行った.具体的には,スパースコーディングから得られる特徴量の分布を鑑み,部分空間法を識別器として用いることで,高精度かつ高速な組織性状判別を実現した.この結果は,今後学会誌への投稿を予定している. また,当初予定していた医師に医療診断支援システムを利用して頂くこととGPGPUによるシステムの実装に関しては,進捗が芳しくない.医療診断支援システムを利用して頂くことに関しては,実際のIVUSデータを頂ける医師との連携が取れなかったことが問題であった.またGPGPUによるシステムの実装に関しては,識別器の開発に予想以上に時間がかかってしまった.
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今後の研究の推進方策 |
次年度では,3組織から構成されるプラークの解析と進捗状況で芳しくなかった医師に医療診断支援システムを利用して頂くこととGPGPUによるシステムの実装を重点的に行う.また,本研究の最終的なまとめとして,スパースコーディングから得られる特徴量に対する解析を進める. 3組織から構成されるプラークの解析に関しては,当該年度に開発した血管内プラークの判別手法を応用する予定である,提案手法は,線維性組織と脂質性組織の判別において,従来手法と比較して良好な判別結果が得られている.この手法を応用し,3組織から構成されるプラークを高精度に判別する手法を確立する.具体的にはマルチクラスSVMのように,複数の2クラス分類器を作成し,それらの識別結果を統合することで最終的な判別結果を得る. 医師に医療診断支援システムを利用して頂くことに関しては,検査技師の方との話が進んでおり,次年度には血管内超音波法のデータが頂ける予定である.また,医師の方に実際の医療診断支援システムを利用して頂き,その使用感をシステムにフィードバックする. GPGPUによるシステムの実装に関しては,識別器の開発が概ね良好であるため,今後はリアルタイム性を持たせるための研究を行う.また,提案手法が並列処理に適していなかった場合には,よりリアルタイム性を持つ手法を考案する. スパースコーディングから得られる特徴量に対する解析に関しては,血管内超音波法から得られるデータ以外にも,音声データなどの一次元信号に対してスパースコーディングを適用し,その特徴量を解析する.具体的には,特徴空間上でのデータの分布を確認し,当該年度に開発した判別手法の有効性を検証する.
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