研究課題
本研究は、精巣に高発現するヒストンバリアントとトランジションプロテイン(TP1、TP2)の機能および構造を解析し、精子形成時における染色体動態の制御機構を明らかにすることを目的とする。本年度は、ヒトの精巣に高発現するヒストンバリアントH3.5と、マウスの精巣に高発現するヒストンバリアントH2AL2(H2A.B)およびTH2B(TSH2B)と、トランジションプロテインTP1、TP2の機能・構造解析に取り組んだ。まず、H3.5ヌクレオソームは通常のヌクレオソームより不安定であることがわかった。次に、H3.5ヌクレオソームの結晶構造を決定することに成功した。構造解析の結果、H3.5の103番目のロイシンによって、H3.5は通常のH3と比べ、H4との疎水性相互作用が低下していることが示唆された。さらに、変異体解析により、H3.5の103番目のロイシンはH3.5ヌクレオソームの不安定性の主要な原因であることが示された。また、H2AL2とTH2Bをリコンビナントタンパク質として精製し、H2AL2-TH2B二量体を試験管内で再構成することに成功した。そして、DNA非存在下において、H2AL2-TH2B二量体はH3-H4四量体と複合体を形成しないことがわかった。一方、DNA存在下では、H2AL2、TH2B、H3、H4をすべて含むヌクレオソーム(H2AL2-TH2Bヌクレオソーム)を形成することがわかった。また、H2AL2-TH2Bヌクレオソームは通常のヌクレオソームより、端のDNAがフレキシブルであることがわかった。H2AL2-TH2Bヌクレオソームの結晶は得られたが、良好なX線回折像は得られなかった。さらに、TP1とTP2を大腸菌に発現させて精製し、ヌクレオソームに加えてゲルシフトアッセイを行ったところ、ヌクレオソームにTP1、TP2が結合することを示唆する結果が得られた。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、ヒトの精巣に高発現するヒストンバリアントH3.5を含むヌクレオソームの機能・構造解析が進展し、解析結果をまとめてEpigenetics & Chromatin誌にて発表することができた。さらに、マウスの精巣に高発現するヒストンバリアントH2AL2およびTH2Bを含むヌクレオソームの再構成を行い、その結晶化に成功している。並行して、生化学的解析を行い、H2AL2とTH2Bの機能に関して重要な知見を得ることができた。また、トランジションプロテインTP1、TP2の精製系の確立に成功し、生化学的解析が進展している。従って、本年度の研究は、おおむね順調に進展していると考えられる。
平成28年度は、H2AL2-TH2Bヌクレオソームの再構成に用いるDNAの長さや配列等の検討を行い、H2AL2-TH2Bヌクレオソームの良質な結晶を得る。得られた結晶を用いて、X線回折実験を行う。良好なX線回折データが得られた場合、H2AL2-TH2Bヌクレオソームの立体構造を決定する。また、ヌクレオソームにTP1、TP2を加えたときに形成される複合体を精製し、生化学的解析および構造解析を行う。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
Epigenetics & Chromatin
巻: 9 ページ: ―
10.1186/s13072-016-0051-y