研究課題/領域番号 |
15J06973
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
桂川 大志 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 修正重力理論 / 中性子星 |
研究実績の概要 |
本年度は、Bigravity 理論と呼ばれる修正重力理論の研究に取り組んだ。一般相対性理論では、時空の計量でダイナミクスを記述するが、Bigravity理論では、新たにもう1つの計量を導入し2つに拡張する。この拡張により、新たに導入される2つ目の計量の自由度から、有質量重力子と呼ばれる有質量スピン2の場が現れることが知られている。これまでの研究から、Bigravity理論において現在の宇宙の加速膨張を説明できることが知られており、また、新たに導入される有質量重力子が暗黒物質の候補となる可能性が示唆されている。申請者は、有質量重力子と通常の物質場の相互作用の特徴を明らかにすることを目標とし、一般相対性理論の場合と比較して、どのような違いが導かれるのかについて研究を行った。 本研究では、球対称静的な時空におけるBigravity理論の性質に着目し、相対論的星の研究を行った。近年、太陽質量の2倍程度の質量を持つ中性子星が観測されたが、既存の枠組みでは、このような重い星を構成することは出来ない。そこで、私はBigravity理論と関わりのあるMassive Gravity理論について、中性子星とクォーク星と呼ばれる相対論的星を研究した。Massive Gravity理論とは、Bigravity理論に含まれる2つの計量の内1つを固定することで得られる理論であり、Bigravity理論を研究するための足がかりとして用いた。 数値計算の結果、Massive Gravity理論の場合には重い中性子星を構成することが出来ないことが分かり、また、一般相対性理論と区別できるほどの大きな違いが生じることが判明した。この大きな違いは、Bigravity理論においても同様に現れることが期待され、現在研究を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
交付申請書に記載した研究実施計画では、暗黒物質としての性質をより詳細に調べるために、銀河系の構造やその進化に応用することを計画していた。この研究計画を実施するため、共同研究者と議論・検討を行った後、簡単化された状況での定性的な振る舞いを明らかにするための方策として、試行的に相対論的星への応用を研究することとなった。本年度に実施した研究結果から、当初の研究計画を実施することが困難であることが分かったが、相対論的星については、さらなる研究内容について議論を行っている。また、この研究結果の発表を通して新たな共同研究が始まることとなり、現在研究を進めているところである。 また本年度は、他の研究者との共同研究も多く行い、Bigravity理論以外の修正重力理論の研究にも取り組んだ。本年度の研究成果は3つの論文として出版されるとともに、ギリシャやスペインで行われた国際研究会でも口頭発表を行った。さらに、スペインのバルセロナの研究所に長期に滞在し、その研究所の研究者とMassive gravity理論における相対論的星の共同研究を行い、その成果は現在論文にまとめられ学術雑誌に投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、来年度は、F(R) 重力理論と呼ばれる修正重力理論に着目し、暗黒物質の候補を研究する。F(R) 重力理論は、一般相対性理論におけるEinstein-Hilbert 作用をリッチスカラーR の関数F(R) に拡張したものであるが、この作用は計量の変換によって、Einstein-Hilbert 作用とスカラー場の作用に書き換えられることが知られている。このスカラー場を粒子(スカラロン) として解釈することで、素粒子標準模型の粒子とスカラロンの相互作用が自然に導入される。この相互作用の性質に基づいて、初期宇宙におけるスカラロンの生成機構や、現在の宇宙における残存密度を計算し、宇宙論的・天体物理学的観測から与えられる暗黒物質への制限との整合性を評価する。
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