研究課題/領域番号 |
15J06985
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
毛利 亘輔 国立遺伝学研究所, 系統生物研究センター, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | クロマチンループ / コヒーシン / マウス |
研究実績の概要 |
クロマチンはループ構造をとることで、プロモーターとエンハンサーを物理的に近づけ、相互作用を可能にし、遺伝子発現制御を行う。このようなループ構造を制御する因子として、DNA結合タンパク質であるCTCFと、リング状の構造タンパク質複合体であるコヒーシンが知られている。しかし、これらの因子の欠失は一様に遺伝子発現異常を引き起こすわけではなく、遺伝子ごとに影響が異なる。すなわち、それぞれの遺伝子領域のクロマチンループは制御のされ方に多様性があると考えられる。本研究ではこのような多様性を生むメカニズムとして、コヒーシン制御因子ESCO2に着目して解析を行った。 初年度の実績として、解析に用いる実験動物の準備とその評価を行った。マウスの四肢でESCO2遺伝子を欠失させたところ、四肢全体が欠失した。これはヒトの先天性ESCO2欠失によるRoberts症候群とは異なっている。四肢でESCO2を欠失させたマウスの胎児を調べたところ、ESCO2を欠失した細胞はすみやかに細胞死を引き起こしている可能性があった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に従い、肢芽特異的にCreリコンビナーゼを発現するトランスジェニック系統prx-CreとESCO2のコンディショナルノックアウト系統(cKO)を交配し、肢芽特異的にESCO2遺伝子を欠失させた。得られた生後0日目(P0)個体は四肢を欠失しており、肢芽特異的にESCO2遺伝子の欠失が起こったと判断した。これはヒトESCO2変異体によるRobert症候群のアザラシ肢症とは異なっており、マウスの方がより重篤な表現型を示した。 このcKO系統を胎生の様々な時期で取得し、肢芽でのESCO2タンパク質の発現量をウェスタンブロッティング法により確認した。E11.5の肢芽は野生型よりも小さくなっているものの、残っている細胞にはESCO2タンパク質が検出された。総タンパク量に対してはほぼ野生型と同じであった。すなわち、ESCO2遺伝子を欠失した細胞は細胞死あるいは分裂停止により組織への寄与率が減り、残った細胞はESCO2遺伝子の欠失がまだ誘導されていないか、残存のESCO2タンパク質がまだ十分にある状態だと考えられる。また、E12.5ではすでに肢芽は小さく痕跡程度の大きさになっていたが、残った組織でウェスタンブロッティングを行ったところE11.5と同様にESCO2タンパク質を検出できた。すなわち、ESCO2のタンパク質を欠失した細胞は十分に得られなかったと考える。 そこで、prx-Creとは異なるCre発現トランスジェニック系統を用いることでESCO2タンパク質を欠失した細胞集団を取得することを目指し、CAG-CreERT2トランスジェニック系統とESCO2 cKO系統の交配を開始した。CAG-CreERT2は全身でCreを発現する系統であるが、Cre活性が試薬によって誘導する必要があるため、任意の発生期においてESCO2のcKOを誘導し、その表現型を確認できる。これによって、より発生が進んだ肢芽において同時期にESCO2タンパク質を欠失させ、発生関連遺伝子の発現プロファイルを調べることを目指す。
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今後の研究の推進方策 |
CAG-CreERT2によるESCO2 cKO個体から四肢を取得し、ESCO2タンパク質量を調べる。十分なタンパク質の低下が確認でき次第、その四肢を用いてコヒーシンに対するChIP-seqを行い、ゲノム上のコヒーシン結合部位の変化を調べる。Creによる組み換えの誘導からサンプル取得までの時間を調節することで、より最適なcKO条件を得られると期待される。ChIP-seqの結果からESCO2 KO感受性コヒーシン結合サイトを同定する。 ESCO2 KO感受性コヒーシン結合サイトについて、Chromosome Conformation Capture (3C) 法により他のコヒーシン結合サイトおよびプロモーターとの相互作用を調べ、近傍のクロマチンループ構造を調べる。 本来の研究計画ではESCO2 cKO系統とCTCF cKOのそれぞれに対してコヒーシンの結合サイトの比較を行う予定であったが、ESCO2 cKOマウスのサンプル取得条件を決めるために時間がかかったため、修正を行う。ESCO2 cKO感受性コヒーシン結合サイトに対してCTCFが結合しているかをCTCFに対するChIP-qPCRで確認し、またCTCF cKOにおいてコヒーシン結合状態が変化するかどうかを同じくChIP-qPCRで確認する。ChIP-qPCRはChIP-seqに比べて安価かつ迅速に実験が行える一方、ゲノムワイドではなく特定のサイトに対してのみ行える。野生型におけるCTCF結合サイトがデータベースから得られるため、これを活用してESCO2感受性コヒーシン結合サイトのうちCTCF非感受性であるものを選定する。
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