研究課題/領域番号 |
15J06996
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
林 愛美 大阪大学, 言語文化研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | ジェンダー / 東アフリカ牧畜社会 / 女性性器切除 |
研究実績の概要 |
ケニア共和国に暮らす牧畜民マサイの社会では、通過儀礼の一環として女性性器切除(Female Genital Mutilation、以下FGM)が行われてきた。しかしながら、FGMは心身に深刻な弊害を与えることから、医療的・人権的観点から廃絶運動が展開され、ケニアの法律で禁止されている。本研究の目的は、儀礼における伝統的な秩序とFGM廃絶運動に伴う人権主義との狭間で、マサイの女性たちがどのように儀礼を実践しているのかを解明することである。そのため、以下の2点の調査に取り組んだ。 ①FGMの記憶と実践に関する研究成果 マサイの集落に長期滞在し、FGMの実施状況を調査した。FGMの内容や身体に与える影響については、施術を担ってきた年配女性や伝統的産婆、医療従事者に聞き取りを行った。また20名の女性に対し、FGM経験についての聞き取り調査を行った。その結果、女性たちは施術に近代医療の器具や薬品を導入することで身体の負担を軽減するよう努力していることが明らかになった。また、FGMだけでなく、様々な医療行為の中に近代医療が用いられるようになってきており、そのことが身体加工における選択肢を増やしている可能性が考えられる。 ②女性の社会的地位の変化に関する調査結果 マサイの女性が代表を務めるフェミニストNGOおよび村落部の女性による自助組織の調査を行った。NGOは、啓発活動や代替通過儀礼を実施し、草の根的なFGMの改革を行っている。村落部では、NGOのプロジェクトについてマサイの女性の意見を聞き取った。また、村落部の自助組織には、互助講や教会の合唱団などがあることを把握した。これら自助組織は、女性たちの政治的意見の形成に一定の影響力を持っている可能性が考えられ、女性の社会的地位を変化させる要因になり得るため、今後注視していきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度には、2度にわたってケニア共和国での現地調査を実施した。一時帰国がかなったため、現地調査で得られた成果を日本の学会で報告し、そこでの議論から浮かび上がった課題をすぐにフィールドで検討できるという充実した調査が実現した。 現地調査は、マサイの社会で男子割礼やFGMが盛んに行われる時期を選んで行った。約5か月間をマサイの人びとと共に生活した。その中で、急激な社会変化に対して人びとが感じていることや女性の社会進出に伴って現れた新たなジェンダー問題など、様々な課題を見聞きする機会があった。こうした経験によって、FGMが人びとの生活世界の中でもつ意味合いを理解する必要性や女性を取り巻く諸問題とFGMとを切り離さずに考察することの重要性に気づかされた。2度のフィールドワークで、今後の研究展開にとって貴重な事例に触れることができた。 ケニアではさらに、都市部のNGOや病院でFGMに対する介入についての調査を行った。また、新聞やラジオなどのメディアにおけるジェンダー問題の扱われ方についても調査を行った。滞在中には、英語で調査報告レポートを作成し、マサイ出身の研究者や大学院生と意見を交換した。また、ケニアの研究機関においても研究報告を行った。現地調査以外の期間には、日本の学会や国際シンポジウムでも研究成果を報告した。現在、以上の研究結果について学術雑誌に日本語および英語の論文を投稿中である
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今後の研究の推進方策 |
これまでは、現地調査によるデータの収集を重点的に行ってきた。今後の研究では、収集したデータを分析していく。現地調査では、村落部でFGMの医療化が起きていることが明らかになった。こうした実践について考察するには、ケニア政府の政策やNGOの活動内容についても分析する必要がある。 現地調査の合間の時期に発表した学会で、アジアの女性解放運動についての議論に触れる機会があった。他地域のジェンダー研究に触れ、現地の声に耳を傾ける作業は制度と人びとの暮らし双方への理解によって初めて可能になると感じた。今後は、制度そのものの検討を取り入れ、制度と人びとの営みの間にどれくらいの乖離があり、またどの部分に整合性があるのかを明らかにしたい。また、現地の女性たちが互助組織を通して自立のための活動を行っていることも明らかになっており、運動の普遍性と発展可能性を考察するために他地域のフェミニズム運動と比較検討する必要もある。政策については、FGM廃絶に関連するジェンダー・ギャップ是正のための政策について調査する。またNGOによるFGM廃絶運動について、ケニアの他地域の事例もあわせて調査する。 開発計画の制度的検討を行うため、今後はジェンダーを扱った地域研究を読み直し、開発計画に対峙した民族社会の諸相を分析する方法を学ぶ必要がある。現地の女性の声を紹介するという単純な手法ではなく、制度の検討に基づき、どのような権力関係の中で女性たちが行動し、儀礼を作り変えようとしているのか、そのプロセスを明らかにしていきたい
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