研究課題/領域番号 |
15J07003
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
宮本 雅也 早稲田大学, 政治経済学術院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 運の平等主義 / 分配的正義 / ロールズ / 道徳的功績 |
研究実績の概要 |
本研究は、現代の分配的正義論において重要な立場である「運の平等主義」を批判的に検討するものである。とりわけ、ロールズ主義的な平等主義との対比を通じて、運の平等主義の問題点を明らかにするものである。 本年度の研究では、以下二点に取り組んだ。 第一に、分配的正義における(道徳的)功績の位置づけに関して、運の平等主義よりもロールズ主義の方が優れているという点を明らかにした。運の平等主義は、運と選択を区別し、運の帰結としての不平等のみを補償するべきと考える立場である。功績概念がこの立場を正当化する根拠になりうる。対照的に、ロールズ主義は功績による分配的正義の原理の決定を否定する。われわれの道徳的直観により合致するのは運の平等主義の功績に対する理解の方である。しかし、功績概念が有する個人志向性と過去志向性によって、功績を根拠とする分配を実現する場合、自尊のような価値が損なわれる危険がある。このことを指摘することによって、運の平等主義の功績に対する理解よりも、ロールズ主義の功績に対する理解の方が優れていると示した。この点に関しては、『政治思想研究』第15号に掲載済みである。 第二に、運の平等主義とその批判者たちとの論争を検討することで、その背景には方法上の違いが存在することを明らかにし、ロールズの方法の再考によって、この方法上の問題に取り組む見通しが立てられると示した。運の平等主義に対しては、いくつかの有力な批判が提起されている。こうした批判とそれらへの運の平等主義者の応答を検討することによって、運の平等主義が採る方法が多元主義的直観主義であることが明らかになった。この立場にはロールズの直観主義批判がそのまま当てはまる。そして、ロールズの契約論的・構成主義的方法が、多元主義的直観主義よりも、分配的正義の問題に取り組むには適していると示した。この成果は「政治思想学会」で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分配的正義における功績概念の位置づけ、および、方法上の前提に関して、運の平等主義よりもロールズ主義の方が優れた立場であるという点を示せた。研究実績の概要で書いたように、論文の公表および学会報告も行なっており、ほぼ順調に研究が進んでいると言いうる。また、功績概念だけでなく、責任概念についても、運の平等主義の理解が抱える問題点が明らかになってきており、この点に関する論文の執筆を進めている。ロールズの方法に関する理解の進展によって、分配的正義論に関する研究を進めるための重要な土台も確保できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き交付申請書の計画に従って研究を進める。次年度は以下のような点に取り組む。第一に、運の平等主義の立場を正当化する根拠になっている責任概念を検討し、運の平等主義が採る責任に対する理解が問題を抱えているという点を明らかにし、年度の前半の内に論文を執筆し、投稿する。第二に、ロールズの方法に関する研究をさらに進め、一貫した方法の点からロールズの議論の変遷を理解できると指摘する論文を執筆する。その上で、公正な機会(の平等)に注目し、ロールズの契約論的推論(原初状態の推論)を採った場合でさえ、ロールズが採るような公正な機会に対する理解ではなく、運の平等主義が採るような理解が正当化されうるのではないかという疑いを検討する。
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