研究実績の概要 |
本年度は主に再加熱過程の研究を中心に行った. 大きく分けて三つのトピックからなる. (i)重力による粒子生成, (ii)熱化過程と有限温度有効ポテンシャル, (iii)準安定な電弱真空とinflation後の再加熱過程, である. (i) Inflation後の再加熱を引き起こすため, inflatonと輻射の間に作用に露わな相互作用項を導入することが多い. しかし, これは必ずしも必要ではない. inflatonの運動はEinstein方程式を通じて背景時空に影響を与え, その変化を通じて粒子生成が起こるからである. この効果を簡単かつ統一的に理解できる枠組みを提案し, 特に, 修正重力理論の場合, 粒子生成が顕著になる場合が多いためこれを調べた. (ii) Inflation後の再加熱を引き起こすため, Placnk scaleで抑制された高次元項を導入することが多い. この場合, 熱化はエネルギー・運動量のソフトなモードから起こり, 律速過程は残ったハードなモードのsplittingsであることを過去に示した. 輻射と相互作用するinflaton以外のスカラー場 (e.g. Higgs) に対する, この熱化過程の影響を調べた. (iii) 現在のHiggs bosonとtop quarkの質量測定の結果から, 我々の電弱真空は準安定であることが示唆されている. 一方, 先行研究で, inflation中のHiggsの揺らぎを抑制して電弱真空を救うため, Higgsとinflatonの間に小さな相互作用項が必要なことが知られていた. しかし, inflation後にinflatonが振動するため, この相互作用を通じてHiggsが大きな揺らぎを得て, 問題が再発することを指摘した. 再加熱過程の詳細にあまり依存しない, inflaton-Higgs結合に対する上限を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2015年度に5本の論文を発表し, うちすでに3本は査読付き学術雑誌に出版されている. また, 研究実績の概要からわかるように広範なトピックについて成果を上げており, 当初の計画とは異なるものの期待以上の進展があったといえる. 例えば, (iii)は, 我々の真空の準安定性とchaotic inflationの整合性を議論する際, preheatingを考慮に入れることで, Higgs-inflaton結合に対して上限があることを明らかにした. (ii)は, 再加熱における熱化過程の考察を進展させることで, 従来の宇宙の最高温度の評価が5桁ほど過剰評価になる場合があることを明らかにした. この結果は初期宇宙における対称性の回復・破れに対して大きな影響がある. 特に以上二つの業績は, 研究課題に即した進展であったといえる. それら以外にも二つの業績をあげており, 概ね順調である.
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今後の研究の推進方策 |
Higgs bosonが2012年に発見され標準模型は完成したが, 未だ確定的な新物理の兆候は見えない. 従って, 標準模型が高エネルギースケールまで有効であるとした際に何が言えるのか, を議論しておくことは重要である. 一方で, 宇宙マイクロ波背景放射の観測は, 偏光を測定する新たなフェーズに入りつつあり, large field inflationの兆候が見える可能性がある. 現在のHiggs bosonとtop quarkの質量測定の結果を踏まえると, 我々の電弱真空は準安定であることが示唆されている. 従って, large field inflationと真空の準安定性が共存し得るのか, という観点から研究を進めていきたい. 研究計画では, Higgsが安定だと仮定した上での再加熱過程に焦点を当てていたが, 準安定であることを考慮に入れて再加熱過程を議論をすることが重要になってきていると判断し, 研究計画を変更した.
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