研究課題/領域番号 |
15J07034
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
向田 享平 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | Vacuum decay / Inflation / Preheating / Primordial Black Hole / Gravitational Wave |
研究実績の概要 |
本年度は引き続き再加熱過程の研究を行いつつ,LIGOによるBlack Hole Mergerからの重力波観測を受けInflation由来のPrimordial Black Hole (PBH)の研究に着手した. 1.前年度の研究を受け,電弱真空を崩壊から救うシナリオを提案した.a) 一つ目はPlanck suppressed operatorでのHiggsとmoduliの結合である.inflation中のmoduliの期待値は現在と違っても良いため電弱真空を安定化できる.b) 二つ目はCMB揺らぎの種となるinflationのすぐ後に第二のinflationが起こる場合である.この機構ではPBHが自然に生成され,暗黒物質の候補を与える. 2.preheatingについて以下の二つの場合について研究した.a)重力とnon-minimal couplingを持った理論のうちgauge symmetryを破る場がinflatonの際のpreheatingを調べ,従来の解析よりもずっと高エネルギーの粒子が生成されることを示した.b)Supergravityにおいて現れるgravitinoは長寿命なため,宇宙論的な問題を引き起こす可能性がある.現実的な模型に従来のpreheatingの解析を一般化し,また現象の定性的な理解と評価を与えた. 3.PBHは素粒子でない暗黒物質の有力な候補だが,すばる望遠鏡による制限で状況は一層厳しくなった.これを受け,PBHが未だ暗黒物質と成り得るか否か再考した.一方,LIGOのBlack Hole MergerがPBH由来のものである可能性を議論した.PBHがinflation由来だとすると,CMBの小スケール揺らぎやスカラー揺らぎから誘導された重力波にもシグナルを与え,現状の制限が既にシンプルな模型を排除していることを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
9本の論文を発表し,うち7本は既に査読付き学術雑誌に出版されている.また,国内外の研究会において多数発表した.研究内容についてもテーマに即したもので6本,そこから派生したもので3本の論文を発表しており,研究内容の進展のみならずその発展性もうかがえる. 例えば,業績1では前年度の電弱真空の不安定性とchaotic inflationのpreheatingにおける問題の解決策を与えている.標準模型を高エネルギーまで外挿するため,必然的に暗黒物質の候補が必要になるのだが,提案された解決策においてはPrimordial Black Holeが自然に生成されると言う形になっており,ミニマルなシナリオとして興味深い.また業績2は電弱真空が安定だった場合のミニマルなシナリオであるHiggs inflationに対して従来の解析の抜けを指摘するものであり,今後の研究の発展も期待出来る. 以上から概ね順調であると言える.
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今後の研究の推進方策 |
LHCの結果が示唆するように標準模型は電弱スケールよりも高いスケールでもよい有効理論である可能性がある.しかし,仮に標準模型を高エネルギーまで外挿すると電弱真空が準安定になりがちである.よって,前年度,本年度と電弱真空が準安定だった場合の宇宙論との整合性について議論してきた. 前年度は,インフレーションのスケールがGUTスケールくらい高かった場合,インフレーション中のみならず,後のpreheatingでも電弱真空の崩壊を引き起こす可能性を指摘した.一方,これまでの先行研究では,インフレーションのスケールが低ければインフレーション中に電弱真空の崩壊を引き起こすことはないと考えられてきた.しかし,一般にインフレーションとHiggsの結合はあっても良いため,インフレーションのスケールが低かったとしても後のpreheatingで問題を引き起こす可能性があるためこれを調べる. また,インフレーションや初期宇宙のプラズマ以外でも,真空崩壊を促進するものとしてBlack Holeがあり得るということが最近指摘された.もし,先行研究の主張が正しければ,宇宙年齢までに蒸発するような小さなBlack Holeが一つ我々の宇宙にいただけで問題になってしまう.しかし,いくつか議論に問題点があるためその詳細を詰める予定である.
それとは別にPBHの研究を進展させる予定である.もし仮に,PBHが我々の宇宙にいることが明らかになると,PBHから作られるHaloによってWIMPの対消滅率が非常に大きくなるため,WIMP模型のいくつかを排除できる.対消滅断面積が暗黒物質の速度に依存している場合にどうなるかを調べる.また,inflation以外のPBHの起源として,domain wallの崩壊と言うシナリオがあり得るか否か,ありえた場合にLIGO eventについての示唆について研究する予定である.
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