本研究の目的は、理論的には企業買収により将来獲得が期待される超過利潤を資産化して計上される買入暖簾について、その経済的機能を実証的に検証することにある。最終年度である平成29年度は、主に買入暖簾と市場評価および期待リターンに関する研究成果の公開と、企業の将来業績に関する情報開示の重要な一端をなす、経営者による業績予想開示(以下、経営者予想開示)に注目した研究に関する分析および研究成果の公開に取り組んだ。 経営者予想開示と財務的意思決定の関係に関する研究の一環として、経営者予想開示と自己株式取得の関係に関する研究を行った。日本企業を対象とした検証の結果、より割安な価格で自己株式を取得するために企業が自己株式取得時に保守的な経営者予想を開示する傾向は観察されていない。他方、経営者予想公表前時点で市場からの評価が相対的に低い企業は、経営者予想に対する評価が過小なほど自己株式取得を実施すること、および経営者予想公表前時点における市場評価が相対的に高い企業においては、その傾向が弱まることを発見している。 加えて、経営者予想開示と財務的意思決定の関係に関する研究の一環として、経営者予想開示と株式発行の関係に関する研究を行った。日本企業のアーカイバル・データを用いた検証の結果、企業が公募増資を行う際に悲観的なバイアスをかけた経営者予想を開示すること、および第三者割当増資に際しては楽観的なバイアスをかけた経営者予想を開示することを示唆する検証結果が得られている。さらに、経営者予想のボラティリティが財務的意思決定時における経営者予想開示行動に及ぼす影響についても検証を行い、過去の経営者予想のボラティリティが高い企業の経営者ほど、株式発行に際してよりバイアスをかけた経営者予想を開示することを示唆する検証結果が得られている。
|