研究課題/領域番号 |
15J07065
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山根 文寛 大阪大学, 医学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 炎症 / サイトカイン |
研究実績の概要 |
申請者は本研究において、遺伝子Aを欠損したマウスでは標的疾患に対して非常に強い抵抗性を示すことを発見した。そこで本研究では標的疾患発症における遺伝子Aの作用機構にについて調べた。 まず、炎症期及び疾患発症時におけるサイトカイン産生及び細胞集団の割合、遺伝子発現変化等を解析した。その結果、炎症期において野生型マウスでは遺伝子A欠損マウスと比べ、サイトカイン産生量及び炎症性細胞の浸潤が顕著に高かった。よって、遺伝子A欠損マウスにおける標的疾患に対する抵抗性は炎症応答の差によるものであるとした。 次に、炎症応答の差を引きおこす原因となる細胞の特定を試みた。骨髄移植実験を行ったところ、遺伝子A欠損マウス由来の骨髄を移植した集団では標的疾患に対して高い抵抗性を示した。また、遺伝子A欠損マウスへの骨髄移植実験でも同様の結果が得られた。 ここで炎症時に組織中に存在する細胞についてin vitroでの解析を行ったところ、標的細胞Xのみで炎症応答に有意な差が認められた。さらに、養子移入実験でも野生型マウス由来の標的細胞Xの移入時により強い炎症応答が確認された。以上のことから、遺伝子A欠損における炎症応答の差は、標的細胞Xの応答性によるものであると考えられた。 次に、タンパク質Aと相互作用するタンパク質の同定をするため質量分析を行い、タンパク質Bを候補として取り上げた。標的細胞Xを用いた解析では野生型マウスでのみタンパク質Bが検出された。さらには、組織中でのタンパク質Bの濃度は野生型マウスで顕著に高かった。In vitroにおける解析でも、標的細胞Xから分泌されるタンパク質Bの量に有意な差が認められ、さらに培養系へのタンパク質B中和抗体の添加により炎症性サイトカインの産生が抑制された。以上のことから標的細胞Xからの分泌されるタンパク質Bの量的な差により、炎症性サイトカイン産生量に差が生じていると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請者は、遺伝子Aを欠損させたマウスでは標的疾患に対して強い抵抗性を示すことを発見した。そして、この疾患発症の原因となる細胞群を探索し、標的細胞Xを同定した。また、タンパク質Aと相互作用するタンパク質Bの同定及びそれらのタンパク質の標的細胞Xにおける挙動の解析を行い、疾患発症との関連性を見出した。 さらに現在、これらの因子による疾患発症のメカニズムの一旦を解明しつつある。今後はより詳細な解析を行うことで疾患発症の原因を解明し、更なる研究の発展が期待される。 以上のことから、申請者は日本学術振興会より受けた研究助成金により、当初期待された成果を上回る研究の進展を見せたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、遺伝子A欠損マウスにおける標的疾患への抵抗性は標的細胞Xにおけるタンパク質Bの作用が寄与していることが示唆された。そこで今後の研究では下記の点について、より詳細に解析を進める。 ①タンパク質Bの炎症反応への関与。これまでに、in vitroにおけるタンパク質Bの作用の解析を行ってきた。そこで、in vivoでタンパク質Bの標的疾患発に繋がる炎症反応への関与を検証する。まず、野生型マウスにおいて標的疾患誘導と同時にタンパク質Bの中和抗体を投与する。その後、組織中のサイトカイン濃度や細胞の浸潤等で炎症反応への影響を評価する。また、遺伝子A欠損マウスにマウスに精製したタンパク質Bを投与し、同様の方法で炎症の増悪が起こるかを検証する。 ②標的細胞Xにおけるタンパク質Aとタンパク質Bの作用機構。タンパク質Aとタンパク質Bの相互作用による炎症反応のメカニズムを解明する。まず、遺伝子A欠損マウスの骨髄細胞で遺伝子Aを発現させることで、これを移植されたマウスが標的疾患を発症するかを検証する。その後、炎症期における炎症性サイトカイン及びタンパク質Bの検出を行い、炎症反応における遺伝子Aの寄与をより明確にする。さらに、細胞内でのタンパク質A及びタンパク質Bの局在、そして炎症時におけるタンパク質Bの分泌機構について詳細な解析を行う。 ③タンパク質Aとタンパク質Bの作用部位の同定。タンパク質Aとタンパク質Bの作用部位の同定を行う。過去の報告で知られているそれぞれ活性部位に対する変異体を作成し、相互作用への影響を検証する。また、これらの変異体遺伝子を導入したマウスを作成し、標的疾患の発症及び組織中でのタンパク質Bの濃度変化と関連性があるかを調べる。
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