研究課題/領域番号 |
15J07090
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
大島 健太 早稲田大学, 理工学術院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 月遷移軌道 / 低エネルギー / スイングバイ / 最適化 / 三体問題 / 四体問題 / カオス |
研究実績の概要 |
本年度は,以下の研究内容を実施した. 1. インパルス推進を用いた低エネルギー型月遷移軌道の設計 本研究では,格子探索による初期予想の探索,multiple shooting法による最適化(燃料消費量を最小化),continuation法による同一ファミリーの解の探索を行うことで,遷移時間が200日以下の低エネルギー型月遷移軌道を大域的に探索し,解構造を明らかにした.さらに,遷移時間-燃料消費量に関するパレート最適解を解析し,太陽,地球,月の摂動を利用して燃料消費量を低減するメカニズムを示した.以上の成果に基づいて国外発表を1件, 国内発表を2件行い,国際学術誌雑誌へ投稿準備中である. 2. 太陽重力摂動下における連続月スイングバイ軌道の設計 近年JAXAと東京大学によって提案され、開発されている超小型衛星EQUULEUSは,地球-月系のラグランジュ点L2周りの低エネルギーな準周期軌道(準ハロー軌道)に遷移して月の裏側を観測することを目指している.本特別研究員は,上述の低エネルギー型月遷移軌道に関する研究において培った経験を活かし,EQUULEUSミッションの軌道設計に協力した. EQUULEUSは太陽,地球,月の摂動を利用するため,カオス的な軌道となり,そのような軌道の系統的な設計手法は確立されていない.また,EQUULEUSは超小型衛星であるため,使用可能な燃料消費量の大きさは限られており,また相乗り衛星であるため打ち上げ条件を決定することができない.したがって,十分小さな燃料消費量の遷移軌道を色々な打ち上げ条件に対して柔軟に設計する必要がある.これらの困難を克服するため,他の研究者と協力して軌道設計ツールを作成した.これにより,複数の打ち上げ条件に対して燃料消費量が許容値以下の遷移軌道を求めることが可能となった.以上の成果に基づいて,国内発表を行う予定(採択済)である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究成果として,ミラノ工科大学にて国際共同研究を実施し,インパルス推進を用いた低エネルギー型月遷移軌道の大域的解構造を明らかにすることができた.その成果を米国での国際会議や国内学会にて発表し,また現在査読付き論文として国際学術雑誌に投稿を準備している.研究に付随して開発した手法およびツールは,小惑星への遷移軌道等,今後色々な応用が見込まれる. さらに,JAXA宇宙科学研究所と東京大学の共同研究開発チームに所属して,専門分野を活かして超小型衛星ミッションの軌道設計を行った.この成果は,平成29年度に開催予定の国際シンポジウムでの発表に採択されている. また,所属研究室の修士課程の学生達と協力して,低エネルギー型月遷移軌道の設計手法に関する新たな研究成果を挙げ,国内学会にて発表した. 以上のことから,本年度の研究はおおむね順調に進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
今年度は軌道の最適化に関する研究を中心に行ったが,最適化に用いる初期予想の質(最適解からの”近さ”)が良い最適解を求めるために重要であることがわかった.したがって,今後は工学的な応用を念頭におきつつ,天体系におけるより基礎的なダイナミクスの解析を行う予定である. 具体的には,quasi-satellite orbit(QSO)と呼ばれる軌道への遷移および捕捉現象の力学的メカニズムを,空間円制限三体問題のモデルを用いて探求する.特に,QSO周辺の周期軌道および準周期軌道の構造を明らかにし,それらに漸近する不変多様体と呼ばれる軌道群のセパラトリクスとしての性質に基づいて遷移・捕捉現象を議論する予定である.QSOには多くの小惑星が捕捉されており,また将来的なミッションにおいても利用が検討されていることから,QSOへの遷移および捕捉のメカニズムの解明は天体力学および軌道工学の両面の発展に寄与すると期待できる.
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