研究課題/領域番号 |
15J07102
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
新甫 洋史 九州大学, 数理学府, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 数論的位相幾何学 / 3次元多様体 / 類体論 / イデール |
研究実績の概要 |
数論的位相幾何学の思想に基づき,数論と3次元トポロジーの類似の観点から,3次元多様体においてイデール理論を用いた類体論の類似の研究を行った.今年度は自身の先行研究の徹底的な拡張を共同研究者である植木潤氏(東京大学)と共に行った.具体的には以下の3点が挙げられる.まずとても許容的な絡み目と呼ばれるある種の無限成分の絡み目を定義し,その存在を示した.またその無限成分絡み目についてイデール群を構成し,数論における類体論の主定理であるArtinの大域相互写像と呼ばれる写像を用いた同型定理と存在定理と類似した定理が3次元多様体においても成立することを示した.次に,イデール群の中の主要な部分群として定まる主イデール群というものの幾何学的な解釈を与えた.最後に,イデール群やそれについて定る種々の部分群についての群コホモロジーの計算を部分的に与えた.以上について具体的にプレプリント「Idelic class field theory for 3-manifolds and very admissible link」という論文で執筆した.なお,これらは純粋なトポロジー的な議論に基づいて行われるものである.この結果により低次元トポロジーにおけるイデール群という新しい道具を構成することに成功した.これを用い,数論の歴史に示唆を受けることで低次元トポロジーの新たな発展が期待される. また,研究計画に予定された微分幾何学的な設定の下でのイデール理論の構成においては局所理論の類似性を確かめるためにKopei氏によって導入された附値と自身によって既に定義されていた附値が一致することが確認された.これにより微分幾何学的な設定の下での類体論の類似の成立が期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自身による先行研究があったが,その理論の拡張として共同研究者の植木潤氏の協力のもと徹底的な拡張が行えた.具体的には以前の結果は整ホモロジー球面というある種のクラスにおけるイデール理論の構成であったが,現在は一般の向き付け可能な連結閉三次元多様体についての構成まで行われている.また類体論を構成する際において必要となる,イデール群に対する位相をノルム位相と標準位相という2種類の位相を定めることができ,それら二つの関係性に関しても有理ホモロジー球面に関しては一致することを示すことができた.また最大の弱点とも思われた主イデール群の定義に関しても,より自然なものを採用できることがわかり幾何学的な解釈を与えることができた.以上の観点から基礎理論の構築はほぼできたと考えることができ,進展はあるものと思われる.
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策としては設定を新たに変え,微分幾何学的な状況でのイデール理論の構築を考えている.リーマン面による葉層構造と力学系を定めた3次元多様体において,数論的な類似を探るKopei氏による先行研究があった.Kopei氏の理論ではイデール理論の構築は行われておらず,前述した通り,見た目は違うものの本質的に同じことをやっている箇所が部分的に見受けられる.まずは類体論の構築のための準備として局所類体論の成立を確かめる必要があり,ヒルベルトの定理90や類体公理などを確かめるなどしていく計画がある.氏の理論は関数体と代数体の類似のアイディアを用いた箇所が多数見受けられ,かつリーマン面の古典的な理論をある意味で実3次元に拡張している.よって由緒正しい類似の辞書を考えることである程度の計算は行える見込みがある. しかし,問題点として無限素点の類似をどう扱うかという点が以前として残っている.これはKopei氏によるまったく新しいアイディアであるが,それをいかに類体論的現象に落としこむかが難しい点である.数論においては無限素点における局所類体論は非常に簡単なものであるが,幾何学的な場合はコンパクトな葉を無限素点の類似として見ているため数論ほど簡単にはならないように見受けられる.対応策として,まず具体的に3次元球面のような比較的研究の進んでいるクラスの多様体について考えていくということを現在考えている.
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