本年度は、前年度までに行ったオルガヌム大全写本群(フィレンツェ写本、W1写本、W2写本等)とサン=マルシャル写本群(A、B、C、D写本)におけるコンドゥクトゥスのメリスマ部分(カウダ)の分析結果を考察し、単独音符(以下省略形は単)とリガトゥーラ(連結符、以下省略形はlig)の音数およびその配列パターンの統計をとった。 オルガヌム大全写本群(13~14世紀成立、角符ネウマ)を分析したところ、あらゆるリガトゥーラの中でも3音リガトゥーラの使用頻度が最も高いことが分かった。この結果は、ザンクト=エメラムの無名者(1279年頃活躍)などのパリ・ノートル・ダム楽派の理論書が3音リガトゥーラの基本性を主張しているのと一致する。また、リズム・パターンとしては、2拍・1拍の連続から成る「第1モード(3音lig+2音lig+2音lig…)」、3拍・1拍・2拍の連続から成る「第3モード(単+3音lig+3音lig…)」が多数認められた。 一方、サン=マルシャル写本群(12~13世紀成立、アキテーヌ式ネウマ)では、3音リガトゥーラよりも2音リガトゥーラの方が頻繁に用いられていた。A・B写本では規則性のある単独音符とリガトゥーラの配列がほとんど確認されず、少なくともその記譜はリズムを表すことを意識したものではないと推測される。対してC・D写本では、第1モードの配列(単+2音lig+2音lig...および3音lig+2音lig+2音lig...)と、1拍・2拍の連続による第2モード(もしくは第4無名者が指摘する前時代の第1モード)の配列「2音lig+2音lig...」が散見された。しかし、第3モードの配列はC・D写本ではほとんど見られなかった。また、少数ながら、「2音lig+3音lig+3音lig...」というオルガヌム大全写本群ではほとんど登場しない配列が確認されたのも興味深い。
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