研究課題/領域番号 |
15J07130
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
宮岡 理美 早稲田大学, 先進理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | ラマン分光 / 生理活性物質 / スクリーニング |
研究実績の概要 |
微生物が生産する二次代謝産物は抗生物質や生理活性物質として広く利用されてきた。しかし、従来の有用微生物探索方法は培養などの二次操作が介在するため、得られる菌体・生理活性物質が制限されており、新規有用物質の獲得が困難になりつつある。そこで本研究では、培養に依存せず有用代謝物生産能を直接評価するスクリーニング手法を開発する。その手法として、顕微ラマン分光法により非標識に微生物の生体成分に基づいたスクリーニングを行い、さらに単一菌体からの遺伝子解析手法を融合させることにより生理活性物質生産菌体の同定や新規生合成遺伝子獲得を目指す。 本年度は、様々な構造をもつ化合物の生産を検出するために、前年度に引き続き多変量解析の最適化に取り組んだ。従来、単一バンドの有無から化合物の検出を行っていたが、目的化合物由来のラマンバンドが脂質やタンパク質などの生体の構成成分由来のラマンバンドと重複した位置に存在する場合、単一バンド強度からでは正確な生産性を検出することができない。そこで、多変量スペクトル分解法(Multivariate curve resolution-alternating least square: MCR-ALS)を用いて、目的化合物のスペクトルを抽出することを試みた。その結果、従来生体由来のラマンバンドと重複し検出することが困難だった化合物について生体内での検出が可能となった。ユニセルラーのような小さい菌体についてもラマンイメージングと多変量解析を組み合わせることで生理活性物質の検出が可能であることが示唆された。さらに、前年度進めていた菌体のカテゴライズについてもMCR-ALSを取り入れることによって、よりスペクトル情報を反映したカテゴライズが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、研究計画の通り、多変量解析を用いた生理活性物質生産の検出に取り組んだ。多変量解析を用いることで複雑な生体由来のスペクトルから目的化合物のスペクトルを取得できるため、従来は検出が困難であった化合物や類縁体を含んだ化合物についてラマン分光法を用いた検出が可能となった。また、ラマンスペクトル取得後の菌体からの遺伝子解析方法について検討し、菌体に特有のスペクトルを検出した後、その菌体から直接遺伝子増幅を行い、解析に十分な質の遺伝子を得ることができた。菌体と化合物によって菌体の前処理、ラマンスペクトル測定方法、遺伝子増幅方法の最適化が必要であるため、今後は目的化合物の検出及び生合成遺伝子を獲得可能な条件について検討する。多変量解析手法のノウハウを蓄積することで今後さらに多様な構造を持つ化合物についても本手法の応用が期待できるとともに、ラマン分光法による生理活性物質生産菌体のスクリーニングとしての有効性を示せる結果が得られた。スループット性に課題が残されているが、次年度予定していた環境微生物における検討について進めることができたため、当初の計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
環境サンプルからのスクリーニングにおいてラマンスペクトル取得方法及び遺伝子解析手法についておおむね最適化を行い、前年度問題となっていた環境中からのコンタミネーションについては解決できたが、サンプルの劣化が新たな問題となり遺伝子増幅がうまくおこらないことが明らかになった。そこで、今後新しいサンプルを取得し、再度スクリーニングに取り組む。 また、抗生物質生産株を多数所有している研究機関との共同研究を進めることで、ライブラリーの拡張や多様な種類の抗生物質について本手法の応用を進める。
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