報告者は、セルビアのポピュラー音楽「ターボフォーク」と民族的アイデンティティとの相関について研究している。本研究の最終課題としてH28年度は、国外との相互的文化交渉が同音楽にもたらす影響を調査した。具体的には以下の通り。 【各国での実地調査】セルビアでは、歌手Seka AleksicとSenka Pinkov、音楽会社Grand Produkcijaの最高責任者Sasa Jaksic、国営放送局の音楽プロデューサーDusan SkletvicとOlga Kaporへの聞き取りを行った。またセルビア国立図書館および国営放送局資料室他で関連資料・文献を収集した。ブルガリアでは、同国のターボフォーク受容を調査するため、セルビア人歌手Cecaのブルガリア公演への来場者に聞き取りを行った。レコード店等では資料・情報収集を行った。さらにセルビア人コミュニティが形成されているスイスでは、ターボフォークを扱うクラブJILでの実地調査と、オーナーUgljesa Marsenicへの聞き取りを行った。 【成果報告】これまでの研究成果を、論文「セルビアのターボフォーク--『オリエンタルなベルベット』は何色か」に纏めた。同論文は『東欧演歌の地政学(仮)』(伊東信宏編著、アルテス・パブリッシング、2017年予定)での刊行が決定している。この内容に関し、国際フォーラムPop-folk genres in East Europe and East Asia: Parallel Phenomena on Both Sides of Eurasia(2017年2月)にて報告した。またH28年度の成果を、国際音楽学会東京大会(2017年3月)で報告した。 以上、H28年度は本研究を完遂するために必須の課題に取り組むことができた。専門分野の研究者らからフィードバックを得る機会にも恵まれ、期待以上の進展があった。
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