研究課題/領域番号 |
15J07201
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中島 悠 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | ロドプシン / トランスクリプトーム解析 / 微生物生態学 |
研究実績の概要 |
本年度は対象種であるVibrio campbellii およびNonlabens marinusのトランスクリプトーム解析に向けた培養条件の検討、生理活性測定を行った。 まず、V. campbelliiにおいて4つの光強度で24時間培養を行ったところ、増殖は明暗で差は見られなかったが、発光量とプロトンポンプ活性は負の相関が見られた。しかし長時間の培養では、遺伝子の発現量が違うのか、刻一刻と変化するプロトン濃度勾配の変化によるものか判断が難しく、より短時間の培養で生理活性の測定およびその際のトランスクリプトーム解析を試みた。その結果、短時間でも発光量は明条件が低く暗条件が高い結果となり、それらは数十分で変化した。またPRやその内部に結合し光を受容するレチナールの合成遺伝子は暗条件で発現が上がった一方、ルシフェラーゼや呼吸鎖関連遺伝子は、明暗で発現に違いはなかった。つまりPR保有細菌は明条件に曝されると数十分でレチナール合成遺伝子やPR遺伝子の発現を開始すると考えられる。ルシフェラーゼの発現量に大きな差はないにも関わらず、発光量が明暗で短時間で変化したことは、PRによるプロトン濃度勾配の形成と、発光系と密接に関わりのある呼吸鎖による勾配形成のバランスが変化した可能性を示唆する。 次にN. marinusについて、貧栄養培地(海水相当)で塩分、pHを変えた5条件において明暗で培養を行ったところ、4条件で明条件下の増殖が促進した。つまり海洋環境のような貧栄養時にPRがATPを合成できることが生理的に有利になる可能性がある。先行研究では、単一条件で明条件下における促進が確認されていたのみで、塩分やpHを変えた培地での報告はなく、今回が初となる。上記培養実験の内、塩分が異なる3条件について、共同研究先であるハワイ大学のEdward F. DeLong教授の研究室にてRNA抽出、cDNA合成の後、illumina社Nextseqシーケンサーを用いてmRNA-seqを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該研究年度は作業仮説証明のために行う研究のメインデータである、比較トランスクリプトーム解析の準備が実施できた。対象種の1つであるVibrio属細菌では、ロドプシンの活性測定や発光量の測定は既に確立された方法を用いていたが、申請段階で予定していた「蛍光式酸素電極」による、光照射時の呼吸活性測定は思ったようなデータが得られず酸化還元物質の吸光から細胞内の呼吸活性を推定するという方法にシフトした。この測定系のみでは明暗での呼吸活性を厳密に議論することはできず、現在解析中のトランスクリプトーム解析と合わせての考察が必要となる。 もう一方の対象種であるNonlabens属細菌については、ハワイ大学Edward DeLong研究室との共同研究として、培養条件の検討、およびRNA抽出、次世代シーケンスまでが終了し、採用2年度目に解析を実施できる状態となった。
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今後の研究の推進方策 |
採用2年度目は、ハワイ大学との共同研究として実施したトランスクリプトーム解析を主に実施する予定である。昨年度得られた、対象2種のトランスクリプトームデータを用い、V. campbellii については、短時間での発現量変化を、ロドプシン・呼吸鎖・中央代謝系に特に着目し、すでに得られている生理活性データ生理活性データと合わせて、PRによるプロトン濃度勾配形成が呼吸鎖による勾配形成の一部を肩代わりできるという作業仮説の証明を行う。 N.marinusに関してはV. campbellii 同様、ロドプシンと呼吸鎖の発現に着目するだけではなく、細胞内に複数ある、他のロドプシンにも着目し、それらに使い分けが存在するのか、複数持つことで、より光に対する応答が生理的なメリットが生じるのかについて、「塩分」「明暗」「増殖ステージ」という要素でどのような遺伝子が変動し、相関を持つのかトランスクリプトーム解析から明らかにする予定である。
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