研究課題
カイコの性決定のマスター遺伝子であるFemの標的遺伝子としてMascが見つけられているがMascは雄分化のマスター遺伝子として機能することが推定されていたものの、推測の域を出なかった。本年度は農業生物資源研究所によって作出された、雌においてMascが高発現するSumi13-3系統の解析を行った。この系統のZW個体は、遺伝子型が雌であるにもかかわらず、雄決定に関わる遺伝子が発現することがわかった。Sumi13-3系統のZW個体における性的二型について形態的な異常の有無を調査した結果、供試した全ての5齢幼虫の卵巣において、卵巣小管端部に精巣に類似した組織が認められた。驚くべきことに、蛹期においてこの精巣類似の組織を解剖したところ、内部に精子束を含むことが確認された。次にSumi13-3系統のZW雌成虫における外部生殖器を観察したところ、部分的な雄の外部生殖器の一部の形成が認められた。Mascが高発現するSumi13-3系統のZW個体において、複数の雄特異的な表現型が観察されたことからMascはカイコにおける雄化のマスター遺伝子であると推察できる。上記の実験と並行して、カイコの若齢期での雌雄差を調査するため、胚発生後期から、1齢幼虫までの卵巣及び精巣について形態学的・組織学的観察を行った。これらのステージにおける精巣と卵巣の切片標本の比較を行ったところ、精巣と卵巣は形態的に酷似した特徴を示すことが明らかとなった。これに対して生体解剖を行うことができた1齢期の幼虫において、精巣では紐体が体軸に対して内側の部位に接続する一方、卵巣では紐体が体軸に対して外側の位置に接続するという違いが観察された。つまり、紐体の形成並びに発生は胚子期の時点で既に明瞭な性的二型を呈しており、故に性決定シグナルの影響を受けやすい部位であると予想された。本研究は、査読付き雑誌に受理された。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、カイコの性決定のマスター遺伝子であるFemの標的遺伝子であるMascの機能解析を行い、その結果、Mascの異所的発現が、ZW雌個体において精子形成を誘導することが明らかとなった。このことからカイコの性分化制御技術の確立に一歩近づき、Mascの機能解析は当初の研究計画以上の成果が得られたといえる。しかしながら、依然としてFemのノックダウンや過剰発現における形態形成への影響は明らかとできなかったことから、この点について次年度においても引き続き調査を行う。
当初の研究計画では、これまでの研究によって得られた性決定マスター遺伝子であるFemに関してノックダウンを行い機能解析を行う予定であったが、本年度はその下流の遺伝子であるMascの機能解析を中心に行った。今後は、Femのノックダウンや過剰発現における形態形成への影響を引き続き調査する。
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Jornal of Insect Biotechnology and Sericology
巻: 85 ページ: 15-20