研究課題/領域番号 |
15J07273
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
矢部 滝太郎 山口大学, 連合獣医学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 脱リン酸化酵素 / 分子標的抗がん剤 / PP2A |
研究実績の概要 |
がんの発生や悪性化は細胞内タンパク質の過剰なリン酸化により引き起こされるため、これまでの分子標的抗がん剤開発は、タンパク質リン酸化酵素であるキナーゼの異常な活性化を阻害することに焦点が当てられてきた。しかし近年、細胞のがん化やがんの悪性化には、キナーゼ活性の上昇だけでなく、脱リン酸化酵素ホスファターゼ活性の低下も極めて重要な役割を果たすことが分かってきた。そのため、ホスファターゼを活性化する抗がん戦略が新たな分子標的抗がん剤創薬において有効であると考えられる。 細胞内の主要なホスファターゼであるProtein Phosphatase 2A (PP2A)は重要ながん抑制因子であり、多くのがんにおいて細胞内PP2A阻害タンパク質の発現上昇によるPP2A活性の低下が観察される。そこで本研究課題では、細胞内PP2A阻害タンパク質であるSETとPME-1によるPP2A阻害機構を解明し、これらを標的としてPP2A活性を回復させるPP2A活性化剤の抗がん効果の立証を目的とする。 今年度はSETに関して、イヌメラノーマ細胞株においてSET発現を抑制すると、がん細胞の増殖能および浸潤能が抑制されることを明らかにした。さらにSETを標的としたPP2A活性化剤OP449とFTY720が、PP2A活性を上昇させイヌメラノーマ細胞株に細胞死を誘導することを明らかにした。 またPME-1に関して、PME-1欠損マウスの胎児から線維芽細胞を単離し、PME-1欠損がPP2A制御機構に与える影響について検討を行った。PME-1欠損細胞ではPP2A発現量が顕著に低下しており、PP2Aのユビキチン/プロテアソーム分解が促進していた。このPME-1によるPP2A分解保護機構は脱メチル化能に依存することがPME-1のレスキュー実験、およびPME-1阻害剤ABL127の処置により明らかとなった。このことから、PME-1は脱メチル化能依存的にPP2Aをユビキチン/プロテアソーム系分解から保護していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SETに関して、伴侶動物臨床においてSETを標的とした抗がん剤治療を実現するための基盤として、イヌの腫瘍に対するPP2A活性化剤の抗がん効果を検討し、メラノーマにおいてSETが新規治療標的として有用であることを明らかとした。さらにPME-1に関して、PME-1 KOマウスから単離した細胞を用いてPME-1によるPP2A制御機構に関する検討を行い、PME-1による新たなPP2A制御機構としてPME-1がPP2Aをユビキチン/プロテアソーム分解から保護することを明らかとした。 各項目いずれも論文発表に至る重要な知見が得られており、かつ次年度の研究計画に記載した事項につながる結果も得られており、研究課題は概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
PP2A活性化剤の有用性に関する検討は順調であるが、PP2A活性化剤によるPP2A活性化の分子機構の解明が当初の研究計画より遅れている。SETに関しては今後、SETによるPP2A活性抑制の分子機構を明らかにすることに焦点を当て研究を推進する。具体的には、PP2A活性化剤によるSETの細胞内局在の変化やPP2A複合体との結合の変化の解析、さらにSETによるPP2A活性抑制に重要な新規リン酸化サイトの同定を開始する。 またPME-1に関して、PME-1を標的とした抗がん剤治療の有用性に関する検討を推進する。具体的には、種々のがん細胞において、PME-1発現抑制が細胞の生存およびシグナル伝達分子に与える影響を解析し、これらがん細胞間で見られる表現型とシグナル伝達分子のリン酸化レベルを比較することで、PME-1によるPP2A活性抑制の詳細な分子機構を明らかにし、PME-1を標的とした抗がん剤治療を実現するための基盤を形成する。
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