研究課題
慢性炎症を背景としたヒト大腸腺腫細胞の癌化機構として、アクチン収束タンパク質であるfascin分子の発現亢進とアノイキス抵抗性の獲得を見出してきた。しかしながら、fascin発現の制御機構は未だに不明である。我々の研究室では、大腸腺腫細胞とこれを慢性炎症環境下に置くことで癌化させた細胞株を所有している。従って、炎症により癌化する前後の細胞株のマイクロRNA発現パターンを比較することが可能となる。ヒト大腸腺腫細胞株(FPCK-1-1)と、これが慢性炎症下で癌化した癌細胞株(FPCKpP1-4)のマイクロRNA発現パターンの違いをマイクロRNAアレイにて解析した。その結果、FPCK-1-1細胞に対しFPCKpP1-4細胞において4種類のマイクロRNAが2倍以上に発現増加していた。これら4種のマイクロRNA発現と炎症発癌との関連を明らかにするために、造腫瘍性と相関するスフェア形成能を検討した。その結果、FPCKpP1-4細胞に各マイクロRNAの機能を阻害するTough Decoy RNAを遺伝子導入すると、4つの候補マイクロRNAの中のひとつ(マイクロRNA-X)では有意にスフェア形成が抑制された。次に、炎症による癌化を規定する分子として報告済み(Proteomics 14: 1031-1041, 2014)のfascin発現への当該マイクロRNAの関与について解析した。その結果、マイクロRNA-Xを機能阻害することでFPCKpP1-4細胞のfascin発現が有意に低下することを見出した。以上より、fascinの発現制御を担う新たな分子としてマイクロRNA-Xを見出した。
1: 当初の計画以上に進展している
FPCK-1-1細胞に対しFPCKpP1-4細胞で2倍以上に発現量が増加している4種類のマイクロRNAの炎症発癌への関与を明らかにするために、各マイクロRNAミミックをFPCK-1-1細胞に遺伝子導入し、造腫瘍性と相関するスフェア形成能の影響を検討した。その結果、FPCK-1-1細胞に各マイクロRNAを発現増強させてもスフェア形成の亢進は認められなかった。一方、FPCKpP1-4細胞にTough Decoy RNAを遺伝子導入することでマイクロRNA-Xの機能を阻害させると有意にスフェア形成が低下した。我々は既に慢性炎症組織に由来する一酸化窒素が大腸腺腫細胞にアノイキス抵抗性を獲得させて発癌に至ることを証明している(Exp Cell Res 319: 2835-2844, 2013)。一酸化窒素のマイクロRNA-X発現への関与を検討した。その結果、FPCK-1-1細胞に一酸化窒素のドナー試薬を添加してもマイクロRNA-Xの発現は増加しなかった。次に、炎症による癌化を規定する分子として報告している(Proteomics 14: 1031-1041, 2014)fascin発現をマイクロRNAが制御しているか否かをタンパク質発現(ウエスタンブロット法)あるいはRNA発現(リアルタイムPCR法)を用いて比較した。その結果、マイクロRNA-Xの機能を阻害させるとFPCKpP1-4細胞のfascin発現が有意に減少した。以上の結果より、fascinの発現制御を担う新規の分子として、マイクロRNA-Xを見出した。また、マイクロRNA-X発現は一酸化窒素によるものとは独立した制御を受けることを明らかにした。
マイクロRNA-Xが造腫瘍性の獲得に関わるか否かについて、機能阻害ベクターを導入した大腸癌細胞をヌードマウスに移植して現在観察中である。加えて、マイクロRNA-Xの発現異常が炎症性腸疾患を背景とした大腸発癌等の過程に普遍的に見られるか否かについても今後検討する予定である。そのために炎症性腸疾患(クローン病および潰瘍性大腸炎)を母地として発生した大腸癌の組織標本を用いる。マイクロダイセクション法を用いて癌部(癌細胞のみ)と非癌部(各癌組織近傍の非腫瘍組織)のそれぞれを回収する。その後に、癌部と非癌部における当該分子の発現を比較する。以上の実験によって、大腸の炎症発癌を規定するマイクロRNA発現異常を決定する予定である。
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Cancer Med
巻: - ページ: -
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