非腫瘍原性のヒト大腸腺腫細胞株(FPCK-1-1)をヌードマウスに誘発した慢性炎症下に存在させると大腸癌へと進展し、その発癌責任分子としてfascin-1 (fascin)を見いだした。本研究は、fascinの発現機構をマイクロRNAの観点から解き明かすことを目的とした。 大腸癌組織から培養樹立したFPCKpP1-4細胞株と、親細胞のFPCK-1-1間のマイクロRNA発現をマイクロアレイによって解析した結果、炎症と関連するマイクロRNA-XがFPCKpP1-4細胞で亢進していることを明らかにした。マイクロRNA-Xに対して特異的な活性阻害に働くtough decoy (TuD) RNAをFPCKpP1-4細胞に導入すると、fascin発現ならびに造腫瘍性と相関する3次元培養環境下での細胞増殖塊の形成能(スフェア形成能)が低下した。このマイクロRNA-X機能阻害株にプロテアソーム阻害剤を添加すると、減少したfascinタンパク量がFPCKpP1-4細胞の非機能阻害株と同等にまで回復したことから、マイクロRNA-Xはfascinタンパクのプロテアソームによる分解を抑制することを初めて発見した。 次に、マイクロRNA-Xの発現亢進機構について取り組んだ。マイクロRNA-Xを発現誘導することが知られている炎症性サイトカインのtumor necrosis factor-α(TNF-α)およびinterleukin-1β (IL-1β)に着目し、リコンビナントTNF-αあるいはIL-1βをFPCK-1-1細胞に添加したところ、いずれのサイトカインを添加した場合においてもマイクロRNA-Xの発現が亢進することを検証した。 以上の成果より、fascin発現の亢進は炎症性サイトカインにより誘導されたマイクロRNA-Xがfascinタンパクの分解を抑制することで安定して維持されることを明らかにした。
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