研究課題
本研究の目的は,ジュール損失のないスピン波を信号キャリアとした多チャンネルの情報演算素子の原理実証を行うことである.この目的達成の為,本年度は基盤材料となる極薄膜磁性ガーネットの開発および既存のバルク材料を伝送するスピン波を用いた論理状態表現に関する基礎検討を行った.1 極薄膜ガーネットパルスレーザ堆積法により,単結晶ガドリニウムガリウムガーネット基板上に品質のよいイットリウム鉄ガーネット (YIG) 膜を形成する手法を検討した.酸素雰囲気下において,800℃以上で基板加熱を行いながら成膜を行う事で,膜厚100 nm以下の単結晶YIGを成膜する事に成功した.また,得られた極薄膜上に高周波平面回路を形成し,スピン波を伝送させる事にも成功した.2 論理状態の表現多チャンネルのスピン波回路を実現するには,デバイス面内に等方的な分散特性をもつ前進体積波モードのスピン波を用いる事が望ましい.しかし,このモードでは端面反射による位相面の乱れが課題となっていた.これを解決する為,導波路端の表面に選択的に10 nmオーダーの薄い金属膜を形成する事で反射波を抑制し,効率のよい位相制御を実現できる手法を開発した.これにより,世界で初めて実験により,前進体積波モードスピン波を利用した論理状態表現を行い,現実環境を想定した磁場外乱中において13 dB以上の高いON/OFF比を示した.
2: おおむね順調に進展している
パルスレーザ堆積法によって成膜した膜厚100 nm以下の極薄膜ガーネットの内部に前進体積波モードのスピン波を励振する事に成功しており,基礎的な技術の集積は当初の予定通り進んでいる.また,バルク材料を利用したスピン波位相干渉の原理実証の部分に関しては,効率的なスピン波のフロー制御の手法を開発できたことで,極めて安定的かつ大きなON/OFF比を得る事に成功しており,期待以上の成果が得られている.この原理による素子の多入力回路化は現在,有限要素解析により設計が進んでおり,来年度以降で実験実証を実施する.
28年度は,引き続きバルク材料を用いた多入力素子の演算原理の実証を行い,この成果を国際会議に投稿する他,得られた極薄膜ガーネットを導波路化するためのプロセス開発を行う.将来的な集積化を見越して,線幅100 nmオーダーの導波路による位相干渉器のプロト素子を作製する.当初の計画では,得られた極薄膜ガーネットに対して希土類系材料を置換する事により,垂直磁気異方性を誘導して励磁に必要なバイアス磁場を低減させる事を想定していたが,元素置換によりスピン波損失が増大する可能性があり,永久磁石による励磁でもスピン波が励振できる事が判明した.そこで,最適な形状の導波路を設計する事で,形状磁気異方性を利用した低バイアス磁場化を検討する.
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