これまでの研究により心筋特異的転写因子を導入することでマウス、さらにはヒトで線維芽細胞からの心筋直接リプログラミングを可能とした。また、筋特異的マイクロRNAであるmiR-133により心筋誘導効率が改善すること、そのメカニズムとして上皮間葉移行のマスター因子であるSnai1を直接抑制することで線維芽細胞の特性が消去され、心筋誘導が促進することを明らかとした。これらによりジェネティックな障壁が明らかとなったが、エピジェネティクスを含めた分子基盤に関しては不明な点が多く、リプログラミング効率も依然十分ではない。 そこで、注目したのが低分子化合物である。コスト、安全面、簡便さから臨床応用に向け優れている。本研究ではエピジェネティック制御因子も含めた化合物ライブラリーの中から心筋誘導を促進するものを探索した。心筋特異的蛋白であるαMHC を蛍光標識したαMHC-Cre/Loxp-tdTomato (tdT) 遺伝子改変マウスの尾部線維芽細胞を用いて、心筋リプログラミング因子に加えて各種低分子化合物の導入することで誘導されるtdT陽性細胞数及び割合をcell image analyzerにより評価し、high-troughput screeningを行い、tdT陽性細胞の誘導を促進する化合物の絞り込みに成功した。その中で、心筋直接リプログラミングを強く促進する新規子化合物として、化合物Aを同定した。化合物Aは心筋リプログラミング因子に加えることでcTnT陽性細胞を強く促進することをflow cytometerで確認した。また、グローバルな遺伝子発現の変化をマイクロアレイで確認したところ、化合物Aを加えることで、心筋の発生・機能に関わる遺伝子群が顕著に上昇していた。
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