本研究は、軽元素スピントロニクス材料におけるK吸収端X線磁気円二色性(K-edge XMCD)の起源を解明し、XMCDを更なる材料開発に活かすことを目的とした。XMCDを得るためにはスピン軌道相互作用(SOI)が必要であるが、軽元素ではSOIが弱いため、そのXMCDの起源は十分理解されていなかった。近年、グラフェンやh-BNを用いたスピントロニクス材料の研究が精力的に行われており、局所的な磁気的情報を得られるXMCDの軽元素への応用は重要である。
前年度に拡張した、周囲原子のSOIを取り入れた多重散乱理論を用いて、CrO2におけるO K-edge XMCDの解析を行った。磁性軽元素化合物の多くは強相関電子系を構築するため、K-edge XMCDスペクトルを理解するための適切な標準物質が限られている。その中でCrO2は強磁性ハーフメタルの性質を示し、遍歴的な電子描像で理解出来る部分が多いため扱いやすく、軽元素XMCDスペクトルを理解するための基準物質となると考えた。解析した結果、酸素原子ではなく、周囲のCr原子のSOIが重要であることがわかった。これは前年度に解析したグラフェン/Ni(111)におけるC K-edge XMCDスペクトルと同様の結果であり、軽元素XMCDの特徴であると考えられる。計算したXMCDスペクトルが軌道密度と良く対応することから、「Crの軌道モーメントを酸素が軌道混成を通して受け取る」という描像でXMCD強度が得られることが明らかとなった。これは、従来考えられて来た「Crのスピン分極を酸素が受け取った後、酸素のSOIで軌道モーメントを得る」描像とは異なり、K-edge XMCDの理解に貢献した。
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