キラルケイ素化合物は天然に豊富に存在するキラル炭素化合物とは大きく異なる特性を有し,それ故に従来にない機能性材料や不斉反応剤,生理活性化合物としての利用が期待できる.さらに,環骨格にケイ素不斉を導入すると,環構造の立体規制によって官能基が独特な空間に配置されることから,鎖状化合物とは異なる特性の発現が期待される.そこで本研究では,新たに環状キラルケイ素化合物を不斉合成し,その立体選択的変換手法を開発することを目指した.具体的には,エポキシドが縮環したアキラルシランの不斉非対称化を伴うβ-脱離反応について反応条件の最適化,立体選択性発現機構の解明等の検討を行った.さらに,本反応で得られる環状アルケニルシランのアリルアルコール部位を変換することによって多様な環状キラルケイ素化合物の合成に展開することを試みた. まず,シラシクロペンテンオキシドの不斉β-脱離反応について検討を行った結果,新たに開発したキラルリチウムアミドを用いることで,シラシクロペンテノールを高エナンチオ選択的に得ることに成功した.また,得られた光学活性なシラシクロペンテノールのアリルアルコール部位を変換することによって,種々のキラルシラシクロペンタンを立体選択的に合成することにも成功した.中でも不飽和結合部位に2つの水酸基を導入したキラルシラシクロペンタントリオールが有意な生理活性を示すことを見出すとともに,その活性がケイ素上のキラリティーによって顕著に異なることを明らかにした.これらの成果に基づき,今後,キラルケイ素化合物の特性を活用した新しい医薬品の開発研究が発展するものと期待される.
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