研究課題/領域番号 |
15J07557
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
富永 亮 山口大学, 医学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 放射圧 / 光渦 / ナノシートコロイド |
研究実績の概要 |
本研究では、回転子を有する有機分子を無機ナノシート層間に固定し、光渦の放射圧を利用して回転子を回転させることで、固体中で回転子が規則正しく配列し、かつ同一方向に回転する人工分子モーターを世界に先駆けて実現することを目指している。この目的を達成させるためには、まず、光渦を発生させ、発生した光渦を試料に集光するためのシステムを構築しなければならない。そこで、平成27年度は、光渦を発生させるための装置と市販の顕微鏡を組み合わせたシステムの構築を行った。 具体的には、空間光位相変調器(浜松ホトニクス、X10468-01)を用いて光渦を発生させることにした。空間光位相変調器と顕微鏡の組み合わせにより光渦を発生させるには、偏光したレーザー光のビーム径を顕微鏡の対物レンズの瞳径に合うように拡大し、平行光にして空間光位相変調器に入射する必要がある。そこで、ビームプロファイルの良い大出力光が得られるNd:YAGレーザーの高調波である532 nmの偏光した光を、ビームエキスパンダで拡大し、空間光位相変調器に入射した。その後、空間光位相変調器により位相変調された光は、変調された位相を損なわれずに光を伝搬できるように設計したリレー光学系を通し、顕微鏡に導いた。発生した光渦はCCDカメラで観察した。 空間光位相変調器と顕微鏡の組み合わせにより質の高い光渦が発生する光学系を設計するためには、一般的な光学のみならずフーリエ光学の高度な専門知識を必要とする。このような知識に長けた専門家と幾度も議論を交わすことで、1年で質の高い光渦を発生させることに成功した。 この装置の完成を受け、無機ナノシートと有機分子からなるハイブリッドへの光渦照射の予備実験にも着手した。有機分子を固定したナノシートの集合体の配向に、光の放射圧に基づく摂動をあたえることに成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成27年度は、光渦を発生させるための装置と顕微鏡を組み合わせたシステムを構築すること、およびアキラルな液晶に光渦を照射し、キラルな分子配列を誘起することを計画していた。光渦を発生させるための装置と顕微鏡を組み合わせたシステムを構築するにあたり、結果的には1年の歳月を有したが、化学をバックグラウンドとする者が応用物理の第一線の研究室と同等のシステムの構築に成功した。研究目的を達成するために必要不可欠なシステムであり、研究の核である。そのようなシステムを応用物理の第一線の研究室と同等のクオリティーで構築することができたこと、また、2年目に計画していた無機ナノシートと有機分子とのハイブリッド系を用いた予備的な実験において、有為な結果が得られ始めていることを鑑みて、研究の進捗状況は当初の計画以上に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
物体に作用する光の放射圧の大きさは、物体の大きさ、物体の屈折率に大きく依存する。そのため、ナノメートルオーダーのサイズの分子に作用する光渦の放射圧の大きさは極めて小さい。したがって、光渦により回転子を有する分子の回転子を同一方向に回転させることは、現時点では、至難の業であると予想される。一般的に、数マイクロメートル程度の大きさの物体が光の放射圧を十分に受けることが報告されている。そこで、厚さ1 ナノメートル、拡がり方向が数マイクロメートルの板状結晶である無機ナノシートに着目した。 無機ナノシートが水中に分散したナノシートコロイド溶液は、ある濃度範囲で液晶相を発現する。このナノシート液晶に、強度を変えながら光渦を照射し、キラルなナノシートの配向を誘起できる光渦の強度条件を明らかにする。その後、キラルなナノシートの配向を検知するために、SHG測定を行う。高感度な検出を行うためには、光渦の波長とSHG光の波長が互いに異なることが望ましい。そこで、波長1064 nmの光渦を発生させるための光学系を新たに構築する。そこに、波長1030 nmのフェムト秒レーザーを入射し、515 nmのSHG光を検出することで測定を行う。 また、無機ナノシートと有機分子とのハイブリッド系にも着目した。さまざまなドナー性やアクセプター性を示す置換基を導入することで吸収係数の異なる分子を設計・合成し、無機ナノシートとのハイブリッドを作製する。このハイブリッドに光渦を照射し、SHG測定を行う。SHGシグナルの強度をたよりに、最も光の放射圧を効率よく受ける分子の吸収係数の大きさを明らかにする。
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