本研究では、無機ナノシートの層間に取り込まれた有機化合物を光の放射圧により回転させることを目的とした。物質に作用する放射圧は物質のサイズが大きいほど大きいため、有機化合物だけでなく主に無機ナノシートに放射圧が作用する可能性がある。しかしながら、無機ナノシートそのものと光の放射圧との相互作用については未開拓である。そこで、無機ナノシートに光の放射圧を作用させた際に生ずる挙動を解明することとした。無機ナノシートとして、ニオブ酸ナノシートに着目し、ニオブ酸ナノシートが水に分散したコロイドを試料に用いた。この試料に、波長532 nmのレーザー光を対物レンズで集光して照射し、明視野および偏光顕微鏡によりナノシートの光捕捉挙動を観察した。 まず、ニオブ酸ナノシートがランダムに分散しているコロイドに直線偏光のレーザー光を照射した。その結果、ナノシートは、その面をレーザー光の進行方向、かつ偏光方向に対して平行になるように配向し捕捉された。また、円偏光のレーザー光を照射すると、捕捉されたナノシートは回転した。円偏光によるナノシートの回転制御は、有機化合物を吸着させたナノシートにも適用可能であり、ナノシートに吸着した有機化合物の回転制御も実現した。 次に、ナノシート液晶へのレーザー光照射を行った。ナノシート液晶に直線偏光のレーザー光を照射すると、焦点よりも大きな範囲にわたって、大きさ100μm程度の階層構造が焦点を中心として局所的に形成する様子が観察された。焦点の大きさよりも大きな範囲にわたって階層構造が形成されたのは、ナノシート液晶中のナノシートのもつ大きな排除体積と、それに伴う大きな協同効果に帰せるものであった。ナノシート液晶に特有の大きな協同効果を利用することで、ナノメートルサイズのナノシートをビルディングブロックに数百マイクロメートルオーダーの構造体が容易に形成することを見出した。
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