研究実績の概要 |
本研究課題は,“多重架橋型および完全な帯状構造を持つ有限長カーボンナノチューブ分子のボトムアップ合成”を目的としている.この成果は,カーボンナノチューブ(以下,CNT)の最小要素を 作り出すにすぎなかったボトムアップ化学合成を,CNT分子の全合成にまで押し上げることが出来ると考えている.この目的の達成のために,本年度は,新規カーボンナノチューブ分子合成に向けた,新たな構築ユニットの合成を検討した. 新たな構築ユニットの選定にあたっては,①大量合成が可能であること,②多重架橋型有限長カーボンナノチューブ分子の構築に向けた置換基導入が容易であることを重視した.この新しい構築ユニットは,短期留学期間中に共同研究者とともに確立した新たな合成法を用いた新規芳香族化合物である.現在までに,いずれの段階も中〜高収率での合成経路の設計に成功し,また構築ユニットのグラムスケールでの合成に成功している.グラムスケールでの合成経路の確立は,共同研究者らにより先に報告されている類縁体の合成報告でも行われておらず,効率的な経路が設計できたものと考えている. この新規芳香族化合物を用いたカーボンナノチューブ分子の構築には,所属研究室で報告している,塩化白金錯体を用いた白金四核錯体の合成,続く還元的脱離反応による方法を試みた.初期検討結果から,白金四核錯体の形成が質量分析測定の結果からは観測されたものの,還元的脱離後には目的分子に由来する分子イオンピークは観測されず,大環状化が起こらなかった直鎖状オリゴマーのみが観測された.その後,白金四核錯体の形成段階についてと還元的脱離反応において,種々の検討を行ったが,目的とする大環状化合物を得ることは出来なかった.今後は,さらなる合成条件を検討するとともに新たな構築ユニットの合成も含めて,検討を行っていく予定である.
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