研究課題/領域番号 |
15J07566
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
日比野 沙奈 慶應義塾大学, 医学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 制御性T細胞 / 抗腫瘍免疫応答 / 免疫寛容 / 核内受容体 |
研究実績の概要 |
実際に臨床で腫瘍が発見・診断される段階では、腫瘍は既に免疫抵抗性及び非常に強い免疫抑制性を獲得した状態にある。よって、腫瘍の増殖を抑制するとともに、腫瘍微小環境の免疫抑制状態を解除し、腫瘍に対する免疫寛容状態を打破することができる方法を見出せれば新たな癌治療の戦略となりうる。免疫寛容の維持には制御性T細胞 (Treg) の存在が重要であり、担癌個体においてはTregが抗腫瘍免疫応答を抑制すること、癌患者体内におけるTregの増加が種々の癌種において予後不良と相関していることがわかっている。 そこで私は、Tregの機能を選択的に阻害しうる標的分子としてNr4aファミリーに着目した。オーファン核内受容体Nr4aファミリー(Nr4a1/2/3)とは、当研究室で同定されたTregの発生及び機能維持に必須の転写因子である。 私は学術振興会特別研究員採用第1年度目において、TregにおけるNr4aの機能がT細胞による抗腫瘍免疫応答の誘導に重要であることをTreg特異的にNr4aの発現を欠損したコンディショナルノックアウトマウス(Nr4a fl/fl Foxp3-creマウス)を用いた癌細胞移植モデルにより明らかにした。また薬剤スクリーニングにより、既知の2種類の薬剤がNr4aの阻害剤として機能しうること、それらが実際にTregによる免疫抑制の解除を介して抗腫瘍免疫応答を惹起し、抗腫瘍効果を発揮することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初はNr4aの発現を抑制しうるmicroRNAのスクリーニングや制御性T細胞をエフェクターT細胞へ機能転換できるepigenetic因子のスクリーニングを行う予定だったが、レトロウイルスを用いるためにスクリーニング系の確立自体が困難であったことや、将来的に予定していたマウスモデルへの適応を考えると現実的でなかったことから、薬剤を対象としたスクリーニング系へ切り替えた。 結果的に、既存薬の中からNr4aの阻害剤として機能するものを同定でき、それらが効率よく抗腫瘍免疫応答を惹起できることも確かめられた。コンディショナルノックアウトマウスの解析からNr4aの抗腫瘍免疫における意義も確認でき、研究はおおむね順調に進行していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
1年目の研究より、Tregの発生や分化に必須である転写因子Nr4aが抗腫瘍免疫応答に関与していることを明らかにできた。特定の病態下でのNr4aの機能はまだ明らかになっておらず、今後は癌の病態に特徴的なNr4aの機能の詳細を明らかにしていきたいと思う。
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