癌患者体内における制御性T細胞(Regulatory T cell : Treg)の増加が予後不良と相関していることが多数の癌種で報告されている。Tregにより形成された腫瘍微小環境の免疫抑制状態を解除し、癌細胞に対する免疫寛容を打破する方法を見出せれば、新たな癌治療戦略として期待できる。本研究ではTregの機能を選択的に阻害しうる標的分子として、Tregの発生及び機能維持に必須の転写因子である核内受容体Nr4aファミリー(Nr4a1/a2/a3)に着目した。 Treg特異的にNr4a1/a2の発現を欠損したマウス(Nr4a1 fl/fl Nr4a2 fl/fl-Foxp3-cre、以下DcKOマウス)に同系統のマウス腫瘍細胞(ルイス肺癌細胞株3LL及び大腸癌細胞株MC38)を移植したところ、DcKOマウスでは野生型に比べて顕著な腫瘍増殖の抑制及びCD8+細胞傷害性T細胞 (Cytotoxic T lymphocytes : CTLs)を主体とした強力な抗腫瘍免疫応答の亢進が確認された。続いてNr4a阻害剤の探索を行った結果、抗癌剤 CamptothecinがNr4aの転写活性阻害剤、また既存のCyclooxygenase-2(COX-2)阻害剤がNr4aの発現阻害剤として機能しうることを見出した。これらの薬剤をマウス皮下腫瘍モデルに投与すると、両薬剤は相乗的にCD8+CTL依存的な抗腫瘍効果を示し、その作用はNr4aを介したTreg機能の阻害に依存することが確認された。 以上のことから、Nr4a受容体は腫瘍微小環境下においてTregの機能維持を司ることで抗腫瘍免疫を抑制していること、逆にNr4aを阻害することでその抑制が解除され、抗腫瘍エフェクターT細胞の強力な活性化を誘導できることが示された。 上記の研究成果は2018年3月Cancer Research誌に報告した。
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