研究課題
国内外のX線天文衛星によって取得された系内・系外ブラックホールのアーカイブデータを用いて、ブラックホールの近傍で起こっている質量放出現象について調査した。まず、系内ブラックホール天体GRS1915+105の「すざく」衛星観測データを用いて、そのX線スペクトルが短い時間スケールでどのように変動しているかを調べた。その結果、X線スペクトルに見られる特徴的な構造は、ブラックホール近傍からの質量放出現象に由来すると解釈すると自然に説明されることを示した。また、ブラックホール天体のX線スペクトル変動が、系内ブラックホールと系外ブラックホールで質量で規格化されない振る舞いを示すことを明らかにした。本研究は「すざく」衛星の特長を最大限に生かした研究であり、国際学会で発表するとともに、学術誌に投稿し、受理された。また、系外ブラックホール20天体に対し、そのX線スペクトル変動を調べ、その変動がブラックホールの前を横切る吸収体の振る舞いによって解釈されることを示した。本研究においては、スペクトル変動の計算および議論において筆者がその役割を担い、共著者として学術誌に投稿し、受理された。また、ある系外ブラックホールに対し、高いエネルギー分解能でそのX線スペクトルがどのように変動しているかを調べた。その結果、ブラックホール近傍から放出されたガスは、大きな変動を示すものと変動をほぼ示さないものに明確に区分されることを見つけた。この結果は、ブラックホール近傍からの質量放出の構造に迫る新たな手段を提示する。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り、国内外のX線天文衛星のアーカイブデータを利用し、種々のブラックホールの質量降着・放出現象を調べた。特に、活動銀河核とブラックホール連星系の鉄構造放射の時間変動の様子が明らかに異なることを報告したことは、大きなインパクトを与えたと自己評価できる。
研究計画においては、2016年2月に打ち上げられたASTRO-H衛星(ひとみ衛星)を用いて研究を進めていく予定であった。しかし、2015年4月現在、ひとみ衛星は地上との通信が取れない状態にあり、今後通信が復旧し科学的運用が再開するかどうか、見通しが立っていない状況である。そこで、最悪の事態を想定し、ひとみ衛星を使うことができない状況になっても研究が推進されるように、方針を一部変更する。具体的には、これまでに蓄積されてきたブラックホール天体の豊富なアーカイブデータを用いて、主に時間変動の観点から、周辺環境に制限をつけることを考える。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
Astronomische Nachrichten
巻: 337 ページ: 507, 511
10.1002/asna.201612338
Publications of the Astronomical Society of Japan
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