研究課題
本年度の研究計画はSiGe系のモデルを用いて、実測とシミュレーションのすりあわせを行うことである。分子動力学(MD)シミュレーションではフォノン周波数が実測よりも高く見積もられる傾向にある。しかし、さまざまなモデルのフォノンについて確かめたところ、スペクトル同士の相対的な関係は実測を再現できていることがわかったため、当初の予定通り計算結果に対して補正係数をかけることによりこの問題を解決した。また、現在までに先行研究にて報告されているSiGeポテンシャルは純粋なSiおよびGeポテンシャルパラーメタの相乗平均となっており、その妥当性の検証についても行った。検証の結果、先行研究のポテンシャルは無歪時のフォノン振動数ω0の再現性は高いが格子定数aの再現性に欠けることが判明したため、本研究では分子軌道法(MO)シミュレーションを用いて新たなポテンシャルの構築を行った。原子間のポテンシャルとして用いたのは、Stillinger-Weber(SW)ポテンシャルである。このポテンシャルは結合長を表す2体項と結合角を表す3体項の和として原子間ポテンシャルをあらわす多体ポテンシャルである。MO計算にはHartree-Fock法を、基底関数には6-311 ++G**を用いた。本研究で作成したポテンシャルパラメータを用いた結果、格子定数およびフォノン周波数の計算結果が実測値により近くなり、不物性に対する再現性が向上したといえる。これらの結果からSWポテンシャルを用いたMD計算によりIV-IV族混晶の格子運動物性の一部を再現できることを示した。これらの結果は国内学会3件として発表している。また、本年度内には間に合わなかったが次年度の秋季国際学会への投稿を予定している。
2: おおむね順調に進展している
研究課題の進捗については、新しい原子間ポテンシャルを構築することで、分子動力学法によって混晶の格子運動とその特性を再現できる可能性を示せたことは一つの成果であると判断する。研究結果の発表については、国内学会3件の発表を行った。本年度内に国際学会や学術論文を発表することはできなかったが、これまでの成果を年度明けの4月に国際学会1件投稿予定および上半期中に学術論文を1通執筆予定である。
SiCおよびGeSnの2元系混晶モデルのPDPを導出する。SiCは200種類以上の結晶多形が存在し、古くから研究がなされており、3C、4H、6Hなどデバイス応用が目される構造では既にラマン分光における応力換算係数も導出されている。しかし、完全なPDPを求めた研究はまだ行われていない。また、GeSnはストレッサー、チャネル、発光/受光デバイスなど多岐にわたる次世代材料である。従来、GeにSnを固溶させる限界組成は数%であるが、MBEやCVDによってSn濃度10%前後の薄膜も得られている。これら試料に対するMD法計算の先行研究例はほとんどないため、それぞれのポテンシャルを新たに作成する必要がある。2元系混晶の実測定は、SiCについては市販試料を、GeSnについては作成依頼により購入するほか、CVDによるGeSn材料の研究を行っている明治大学などから共同研究として試料の提供を受けて行う。
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