研究課題
本年度は、磁場に非常に鈍感な近藤効果を示す典型物質SmTr2Al20 (Tr : 遷移金属)の物性研究を中心に進め、以下の研究成果を得た。1.SmTa2Al20の磁気抵抗がKohler則とよばれるスケーリング則から外れ、温度の低下とともに一桁も増大することを見出した。このKohler則から外れる現象は、非従来型の近藤効果によって、フェルミ面上の緩和時間に顕著な波数依存性が発達しているものと解釈できる。さらに、磁気抵抗がHall係数の符号反転温度10 K近傍を除く広範な温度領域において修正Kohler則とよばれるスケーリング則に従うことを見出した。このKohler則から外れる現象と修正Kohler則の成立は、3次元立方晶化合物では初めての発見である。これまで修正Kohler則は準2次元強相関電子系の磁気揺らぎに特有の性質であると解釈されてきたが、本成果は修正Kohler則が3次元系を含めて普遍的に発現しうる電子輸送現象であることを示している。2.さらに、SmTa2Al20のLa置換系を系統的に調べ、Sm希薄系における電気抵抗の-logT 温度依存性を観測した。これは非従来型の近藤効果がSm単サイトで発現していることを示している。また、高輝度放射光施設SPring-8の共同利用を利用し、X線吸収分光実験からSmTa2Al20のLa置換系のSmイオンが中間価数を持つことを明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画通り、磁場に非常に鈍感な近藤効果を示す典型物質SmTr2Al20 (Tr : 遷移金属)の物性研究を中心に研究が進展している。本年度はSmTa2Al20における磁気抵抗効果、ホール効果の詳細な測定を行い、非従来型の近藤効果による特異な電子輸送現象を見出した。3次元立方晶系で初めて修正Kohler則の観測に成功し、その適用範囲が従来の理解を超えて広がっていることを示した。また、東京大学物性研究所国際強磁場施設と高輝度放射光施設SPring-8の共同利用を利用し、非磁性イオンLaでのSmサイトを置換した(SmxLa1-x)Ta2Al20の電気抵抗測定、Smイオン価数の決定などの物性研究を進展させた。さらに、新規カゴ状化合物の物質探索をスタートし、新物質SmPt2Cd20の単結晶育成に成功した。
来年度は新規Smカゴ状化合物の物質探索を継続して進めるとともに、本年度単結晶育成に成功したSmPt2Cd20の単結晶試料の純良化、および極低温の電気抵抗、磁化測定を進める。SmPt2Cd20の強磁性転移温度や比熱の温度依存性は、磁場に鈍感な近藤効果を示す典型物質SmTr2Al20 (Tr : 遷移金属)とは対照的に、磁場によって敏感に変化する。また、SmPt2Cd20の比熱は、強磁性転移温度以下の極低温で温度に比例する異常な低エネルギー励起が存在することを見出した。通常の強磁性金属から予想される振る舞いとは異なるこの低エネルギー励起と強磁性転移について研究するため、SmPt2Cd20の純良単結晶を用いて、極低温での磁気抵抗、ホール抵抗測定、磁化測定を行う。磁場に鈍感な近藤効果を示す典型物質SmTr2Al20(Tr : 遷移金属)については、本年度物性研究が進展した La置換系を含めて、超音波測定、NMR測定、熱膨張測定、メスバウアー分光実験などの物性測定のため単結晶試料育成を行い、共同研究を進める。
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