研究課題
本年度は,本研究で開発するCD型マイクロチップと検出システムが一体化して回転する分析システムのキーデバイスである,小型蛍光検出システムとCD型マイクロチップの作製および基礎的検討を行った.まず,ターンテーブルに内蔵する蛍光検出システムの光学配置の選定および原理検証を行うことを目的とし,簡便に測定が可能な小型蛍光検出システムを試作した.この検出システムは,LED,ショートパスフィルター,9穴マイクロタイタープレート,ロングパスフィルターおよびフォトダイオードから構成されており,これらを一直線上に配置した検出方式となっている.開発したシステムの性能を,レゾルフィンの蛍光測定および酵素免疫測定法(ELISA)による麻疹イムノグロブリンGの測定により評価したところ,本システムによる蛍光測定および感染症検査への応用が可能であることが確かめられた.次に,CD型マイクロチップの作製および遠心力を利用した送液法の検討を行った.CD型マイクロチップは,微細流路を有するポリジメチルシロキサン(PDMS)ディスク基板と, PDMSをスピンコートしたポリカーボネートディスク(PC)基板を貼り合わせることにより作製した.CD型マイクロチップの測定部に形成された,回転半径およびリザーバー出口のチャネル幅が異なる5個の試料・試薬用リザーバーにモデル試料を入れ,回転数を段階的に増加させることにより,試料を順々に検出チャンバーに導入することに成功した.現在,CD型マイクロチップと検出システムが一体化した分析システムを構成するデバイスの作製に着手している.回転により生じるノイズ等の影響に耐え得るI/V変換アンプを作製している段階であり,I/V変換アンプが完成次第,分析システムを開発し,リアルタイムでの蛍光測定による評価を行う予定である.
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り,本年度は,ターンテーブルに内蔵する小型蛍光検出システムの開発および作製したシステムの基礎的検討について評価した.計画では,①自作した有機ELおよび有機フォトダイオードを用いて,②落謝蛍光顕微鏡と同様の光学配置とする蛍光検出システムを作製する予定であった.しかし,有機半導体を用いるデバイスの安定性や耐久性に問題があり,また,小型の光学素子を誤差無く精確に配置することが困難であった.そこで,①LEDおよび無機フォトダイオードを用い,②光源から受光素子までを一直線上に配置した光学系とすることにより,これらの問題を解決し,小型蛍光検出システムの開発および蛍光測定による評価まで,順調に進展した.次に,CD型マイクロチップと検出システムが一体となって回転する分析デバイスの開発を行った.ターンテーブルに内蔵する検出システム,データロガー,バッテリー等はすでに準備できており,現在,I/V変換アンプの開発に取り組んでいる.そのため,CD型マイクロチップの作製および遠心力に基づく送液の検討を先に行うこととした.フォトリソグラフィーを用いて,考案したデザイン通りにCD型マイクロチップを作製した.CD型マイクロチップの測定部に形成した5つの試料・試薬用リザーバーにモデル試料として純水をセットし,回転数を増加させたところ,試料は順番に流れ出なかった.そこで,純水にTween 20を添加して種々の濃度の試料を調製し,高濃度の試料から円周側のリザーバーにセットし,回転数を増加させた.その結果,円周側のリザーバー内の試料から順々に検出チャンバーに導入することに成功した.現在作製中のI/V変換アンプも完成間近であり,CD型マイクロチップと検出システムが一体化して回転する分析システムの開発にもすぐに着手できる.以上より,本研究はおおむね順調に進展していると考えられる.
今後はまず,I/V変換アンプを早急に作製する.その後,これまでに開発した検出システム,CD型マイクロチップおよび周辺機器を用いて,CD型マイクロチップと検出システムが一体化して回転する分析システムを開発する.検出システムが回転による影響を受けずに作動し,蛍光強度を記録できることを確認した後に,レゾルフィンをモデル試料に用いて,開発したシステムによるリアルタイム蛍光検出の検討を行う.その後,市販のイムノグロブリンA(IgA)定量キットを用いて,抗IgA抗体の固定化,ブロッキング処理,抗原抗体反応および酵素反応の最適化を検討する.得られた最適化条件と,拡散距離および拡散係数から算出される理論値を比較する.その後,最適化条件の下でIgAの測定を行い,検量線を作成する.その後,生体試料の測定が可能であるか評価するため,ヒト唾液中に含まれるIgAの定量を行う.得られた結果を,96穴マイクロタイタープレートとマイクロプレートリーダーを用いる従来法によるヒト唾液中IgAの定量から得られた結果と比較し,相関関係,感度,再現性,測定時間などを詳細に検討する.次に,市販の麻疹イムノグロブリンG(IgG)の定量キットを用いて測定を行い,開発したシステムによる麻疹IgGの測定が可能であることを確認する.その後,共同研究先のベトナム国立フエ医科薬科大学付属病院にて,外来患者400名を対象に麻疹の免疫診断を実施する.測定は,本システムおよび従来法により行い,得られた結果を比較し,開発したシステムにて血清試料を用いる感染症検査が可能であることを証明する.
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分析化学
巻: 65 ページ: 79-85
10.2116/bunsekikagaku.65.79