研究実績の概要 |
1212型の高温超伝導体(Pb,Cu)Sr2(Y, Ca)Cu2O7の超伝導特性について以下の3点を中心に研究を行った。 「高磁場・異方的電気伝導特性を基にした超伝導特性の評価」 60 Tのパルス高磁場を用いて超伝導を破壊し、臨界磁場の面内面直異方性から超伝導コヒーレンス長のab面方向とc軸方向の異方性を評価した。異方性は5-10と見積もられる結果となり、結晶構造から予想される通り、銅酸化物高温超伝導体の中で非常に異方性が小さく、1212型の物質群は超伝導材料としての応用に適することが明らかとなった。 「c軸ジョセフソン特性の評価」 薄膜に微小メサ加工を施し、c軸電流電圧特性の観察を行った。これまでビスマス系を中心とした限られた物質でしか観測されていなかった明瞭なジョセフソン特性を鉛がドープされた1212型の物質で初めて観察することに成功し、超伝導ギャップ・最大ジョセフソン電流などの知見を深めることができた。元素置換効果を検証した結果、鉛イオンの存在がc軸抵抗率を増大させ、明瞭なジョセフソン特性を形成する鍵となっていることが分かった。 「絶縁層の元素とc軸導電率を結びつける新たな理論に関する議論」 c軸の絶縁性をc軸ジョセフソン特性および臨界磁場の異方性から見積もったところ絶縁層のPbサイトのCu置換量およびBi置換量が増えるにつれて、絶縁性が低下する系統的な変化が観察された。これらの傾向から、c軸絶縁性を決定するのは絶縁層を構成する金属酸化物のバンドギャップの大きさなのではないかという推測を行い、単純な矩形ポテンシャルを想定し、Simmonsの量子トンネル電流を計算したところ、実験値から得られるc軸固有ジョセフソン接合のトンネル電流とよく一致することが分かった。この傾向は、1212型物質の元素置換効果だけでなく、層状構造を有する他の高温超伝導体でも広く成り立つことがわかった。
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