研究課題/領域番号 |
15J07628
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
坂巻 邦彦 早稲田大学, 創造理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 超高圧変成岩 / ダイヤモンド / コクチェタフ変成帯 / 顕微赤外分光法 / 流体包有物 / 通常非含水鉱物 |
研究実績の概要 |
1、カザフスタン共和国コクチェタフ変成帯から採取したダイヤモンドを含むザクロ石―単斜輝石岩とダイヤモンドを含まないザクロ石―単斜輝石岩の比較研究を実施した。両岩石中のザクロ石と単斜輝石から1000 ppmを超えるOH基とH2O分子が検出された。ザクロと単斜輝石中のOH基の量から、生成条件は地下200km以深の超高圧条件かつ流体に富む条件と見積もられた。この成果は国際シンポジウム“地球惑星科学連合大会2015”で発表を行った。 2、ザクロ石―単斜輝石岩中の粗粒のダイヤモンドを、顕微赤外分光法を用いて分析を行った。その結果、流体包有物由来のH2O分子、炭酸塩鉱物包有物由来のCO32-、含水ケイ酸塩鉱物包有物由来のOH基が認められた。母晶のザクロ石と単斜輝石と客晶のダイヤモンドの両方からの「水」の発見は世界初である。これは、変成ダイヤモンドが母岩と同ステージにH2Oに富む流体環境下で生成したことを示している。この成果は国際シンポジウム“American Geophysical Union 2015 Fall meeting”で発表した。 3、本課題に関連して、2015年8・9月には、アメリカ合衆国西部のフィールドワークを行い、Basin & Range、Colorado高原、Rocky山脈に産するdiatremeとその捕獲岩・捕獲結晶を中心に地質調査・サンプリングを実施した。全行程で約5400マイルを移動し、調査・観察箇所は550か所に達した。特に、AZ州北部Garnet Ridge、UT州中央部Francis、WY州南西部Boar’s task、では北米大陸下部のマントル深部起源火山岩により運ばれた捕獲岩・捕獲結晶を多数採取し、有益な調査を行うことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
カザフスタン共和国コクチェタフ変成帯に産する二種類のザクロ石―単斜輝石岩の研究では、当初の想定よりもはるかに多い1000 ppm以上のOH基とH2Oが同岩石中のザクロ石と単斜輝石から見つかった。これはプレート収束帯深部に極めて流体に富む環境が存在していたことを示唆しており、「沈み込みスラブ内超高圧交代変成作用」が地下200km以深で機能していた可能性が高い。現在、変成流体の起源について地下200 km以深まで水を運び込みうる含水相の推定を行っており、沈み込むスラブ内部の水の挙動がより精密化されつつある。 「超高圧交代作用流体の化学組成の解明」を、ダイヤモンド中の包有物の研究から実施した。顕微赤外分光法を用いて、ダイヤモンド中からH2Oに富む流体包有物、炭酸塩包有物、含水ケイ酸塩包有物を発見した。還元環境を示すメタン等はダイヤモンド中から見つからなかった。ダイヤモンド中のこれらの包有物は、ダイヤモンド生成時の共存流体が比較的酸化的なH2Oを主成分とする流体であったことを示している。また、深部変成流体の起源を推定する上で大きな手掛かりとなる。 また、他の地域での「沈み込みスラブ内超高圧交代変成作用」モデルの実証に関して、アメリカ合衆国アリゾナ州Garnet Ridgeから採取したマントル起源のザクロ石の捕獲結晶から、Na角閃石の離溶を含むザクロ石を初めて報告した。Na角閃石の離溶は母晶のザクロ石が超高圧下でNaと水に富んでいたことを示す証拠である。このザクロ石は、沈み込んだ海洋プレートの脱水流体を介したカンラン岩の交代作用の産物である可能性が高い。 以上から、本研究課題では当初の想定以上の成果を得ることが出来ており、計画以上に順調に進捗しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
「沈み込みスラブ内超高圧交代変成作用」モデルの精密化の次の段階に進み、深部沈み込みスラブを構成していたすべての岩石中に含まれる「水」の測定を行い、マントル深部への「水」の運び屋と深部交代変成流体の起源の特定、岩石生成時の深度と流体環境、流体の浸透に伴う交代変成作用過程を明らかにする。このようなスラブ内部での流体の挙動に注目した包括的な研究例は今までになく、プレート収束帯深部の流体環境の解明を大きく進展させる可能性が高い。また、本モデルの精密化に付随して、深部沈み込みスラブによってマントル深部へと運び込まれた「水」の行方、というテーマが萌芽した。Marshall氏 (University of Texas at Austin)との共同研究を開始し、アメリカ合衆国西部コロラド高原に産するdiatremeの捕獲岩・捕獲結晶からこのテーマへとアプローチする。 カザフスタン共和国コクチェタフ変成帯に産する二種類のザクロ石―単斜輝石岩の比較研究の成果を論文にまとめており、“Journal of Asian Earth Science”特集号"subduction zone"へ投稿予定である。また、同岩中のダイヤモンドの包有物の新たな成果は、地球惑星科学連合大会2016(5月、幕張)で発表し、本年度中の “European Journal of Mineralogy”への投稿を目標に論文作成を行う。 アメリカ合衆国アリゾナ州北東部Garnet Ridge産の、Na角閃石の離溶を含むザクロ石については“Progress in Earth and Planetary Science”へ招待論文として掲載される予定である。また、同地域のカンラン石についての成果をゴールドシュミット会議(6月、横浜)で発表し、本年度中の論文投稿を目指す。
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