研究課題
本研究課題は,植物細胞中を素早く動き回っているオルガネラへの物質輸送の仕組みを明らかにすることを目的とし,小胞体からゴルジ体への物質輸送を担うCOPII小胞の形成部位であるER exit site (ERES)とゴルジ体に着目して研究を進めている.これまでの研究から,ERESには,ゴルジ体と隣接しているものと,独立したものの2種類が存在することを示した.今年度は,ゴルジ体と隣接しているERESとゴルジ体とは独立なERESとの関係,および,これら2種類のERESと小胞体の関係に注目して解析を行った.経時的観察の結果,ゴルジ体とは独立だったERESがゴルジ体と隣接するようになる様子,また,逆に,ゴルジ体と隣接していたERESがゴルジ体から離れ,独立なERESになる様子が観察された.このことから,ERESはゴルジ体に隣接した状態と独立した状態をサイクルしていることが示唆される.小胞体とERESを可視化し,観察を行ったところ,ゴルジ体と隣接するERESは小胞体膜上のリング状のドメインに局在していた.一方で,独立なERESは,小胞体のチューブ上や,シートの縁に局在しており,2種類のERESは小胞体膜上の異なるドメインに局在していることが示唆された.ERESの構築やCOPII小胞の形成に関わる因子であるSEC16の二重変異体の解析を行うために,CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集技術を用いて二重変異体を作出した.この二重変異体は,種子貯蔵タンパク質前駆体の輸送異常を示したことから,確かに遺伝子が破壊されていることが確認された.
2: おおむね順調に進展している
本年度は顕微鏡を用いた観察に焦点を当てて実験を進めた.結果,2種類のERESとゴルジ体のダイナミクスを見出し,ERESはゴルジ体に隣接した状態と独立した状態をサイクルしていることが示唆された.また,ERESの状態の変化に小胞体の構造そのものが関与している可能性も示唆され,植物における小胞体-ゴルジ体間の輸送モデルを構築することができた.また,ERESそのものの構造に着目し解析も行った.ゲノム編集技術を用いて,sec16欠損変異体を作出することもでき,今後の解析が進めば,植物におけるERESの構造についての理解が進むことが期待される.一方で,新規輸送変異体の原因遺伝子のマッピングが進まなかったが,これは表現型にばらつきが見られたためだと考えている.以上から,一部うまく進まなかった部分があるものの,おおむね研究は順調に進捗していると考える.
ERESとゴルジ体の関係については,今後定量的な解析を進めていき,モデルの裏付けを行っていく予定である.また,sec16欠損変異体については,ERESマーカーや,ゴルジ体マーカーを導入し,ERESやゴルジ体の形態やダイナミクスに異常がないかどうかを解析していき,植物において,SEC16がERESの構築にどのような役割を果たしているか明らかにしていく予定である.また,同時に,生育や稔性などに異常を示すかについても検討し,ERESの構造が植物の生理機能にどのような関わりをもっているか調べたい.新規輸送変異体の原因遺伝子の同定が進まなかった原因は,目的の表現型にばらつきがあったためである.変異体の自殖を行い,安定した表現型を示す系統を単離したのち,再びマッピングを進めていく予定である.
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