通常の単体建物のエネルギーシステム運用最適化では限定された数の操作変数を扱うが、複数の建物が林立する地域レベルのエネルギーシステムでは操作変数の数が膨大になる。更に、制約条件として各建物の熱需給バランスや、評価関数における配管における熱損失、圧力損失などを考慮しなければならず、最適化問題としての難易度が高くなる。しかし実際の物件では一般的なパソコンにて制御をおこなっているケースが多く、計算機能力にも限界があることを鑑みて、地域レベルにおいても単体建物を最適化する際と遜色ない高速計算が必要になるため、新たなアプローチを考えた。その方法論として、昨年度考案した機械学習による評価関数の計算時間削減を本年度も継続して行った。 昨年度考案した方法では蓄熱槽の運用パターンが限られた条件でのみ有効であったが、実際の運転ではより汎用性のあるモデルが必要となる。そこで、蓄熱槽や熱源の運転をランダム条件下で再現しモデル化を行うことで、機械学習の学習データに汎用性をもたせ、機械学習モデル自体の汎用性を高める方法をとった。その結果、汎用性を上げる前後で精度には1%の違いしか生じず、モデルの汎用性を高めることができた。 更に、電力使用量の制約を考慮するモデルも提案した。これによって契約電力に伴う最適化計算の制約や、非常時やデマンドレスポンス時における使用量制限も加味することが可能になったため、更なる汎用性を有する最適化手法となった。更に、気象条件や機器容量などを自由に変更することが可能な仕様として手法を開発していることから、地域特性などを考慮することも可能である。機器のモデル化は運用最適化のみならず設計時の前提条件にもなるため、機械学習および最適解探索手法であるメタヒューリスティクスを用いた本手法によって、特定のシステムや地理に限定されない設計から運用までの適用が可能になった。
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