研究課題/領域番号 |
15J07681
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
斎藤 優 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 超伝導 / 2次元物質 / 対称性の破れ / 熱電 / 黒リン |
研究実績の概要 |
1.黒リンの電気二重層トランジスタにおける熱電制御 研究対象の物質である黒リンを劈開し、厚さ数十ナノメートル、大きさ数十マイクロメートル程度のナノフレークにした後、EDLT構造を作製し、ヒーターと4端子プロ―ブ、温度計の電極を微細加工し、厚さ40nmの黒リン薄膜に構成することで熱電特性をゲート制御測定と同時に調べた。その結果、空乏領域で熱電性能(ゼーベック係数)が210Kで最大500μV/Kに達していることが分かった。これは従来のバルクの値よりも3倍程度大きく黒燐デバイスの熱電材料としての高いポテンシャルを示している。本研究成果は、特別研究員が筆頭著者として論文に執筆し、英科学雑誌「Nano Letters」に掲載された(Y. Saito et al. Nano Letters 16, 4819 (2016).)
2.高結晶性を有する2次元超伝導体の量子相を解明 研究対象の物質には、既に電界誘起超伝導が報告されている層状物質であるMoS2を用いた。MoS2のような層状物質はスコッチテープ法による劈開で原子レベルで平坦な面が得られるため、FET構造の作製が可能である。このMoS2を劈開し、厚さ数十ナノメートル、大きさ数十マイクロメートル程度のナノフレークにした後、EDLT構造を作製し、電界誘起による超伝導状態での面に対して垂直な方向の磁場を印加して詳細な物性を調べる。さらに詳細な解析を行うために横軸を温度の逆数、縦軸を抵抗にとったアレニウスプロットを行った。低温で実験データは熱的クリープモデルから外れ、抵抗は一定値に飽和していることを発見した。この抵抗値を量子ゆらぎによる磁束のクリープ及びそれによる散逸を仮定したモデルでフィットすると広範囲な領域でフィットできることが分かった。さらにより磁場を強めていくと、弱局在相の手前に多数の量子臨界点を持つことを発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
特別研究員は、黒リン及び二硫化モリブデン(MoS2)に電気二重層トランジスタを適用して関する詳細な物性研究をおこなうことで前者の物質では高い熱電性能を後者の物質では新奇の量子相を開拓することに成功した。前者においては、ヒーターと4端子プロ―ブ、温度計の電極を微細加工し、厚さ40nmの黒リン薄膜に構成することで熱電特性を調べた。その結果熱電性能(ゼーベック係数)が210Kで最大500μV/Kに達していることが分かった。後者の研究では、MoS2の電気二重層トランジスタを低温まで冷却することで約10K程度の超伝導状態を実現することに成功し、さらに面直方向に磁場を印加することで多数の量子臨界点を持つことを発見した。これは有限サイズスケーリングによる解析の結果、量子Griffiths相という新奇な量子相であることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
反転対称性の破れた系では、マルチフェロイクスやシフト電流、非線形光学応答など固体物理の様々な分野で興味深い現象が観測されている。特にその中でも電流を流す向きによって電気抵抗値が変わる非相反伝導現象は反転対称性の破れた物質に普遍的な輸送現象と考えられており、これまでカーボンナノチューブや強磁性/金属界面など様々な構造で観測されている。一方、反転対称性の破れた超伝導体ではカイラルチューブにおける超伝導以外では未だ観測例がなかった。近年発見された電界誘起超伝導体は界面での強電場によって界面で対称性が破れており、このような現象を調べるのに格好の舞台である。特に2次元物質の代表であるMoS2はその単層構造において面内の対称性も破れており、電気二重層トランジスタ構造における電界誘起超伝導でspin-valley lockingによる増強された臨界磁場など様々な現象が観測されている。 今後の研究では、MoS2電気二重層トランジスタ構造を用いて、抵抗の倍周波ロックインAC測定を行うことで非相反超伝導電流を検出することを試み、超伝導状態では磁場に関する反対称成分すなわち非相反成分が明瞭に観測する予定である。さらに電流依存性や温度依存性なども含めてこの非相反現象を議論する予定である。
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