研究課題/領域番号 |
15J07687
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
荒磯 裕平 京都産業大学, 総合生命科学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | ミトコンドリア / タンパク質輸送 / 構造生物学 |
研究実績の概要 |
サイトゾルで合成されたミトコンドリアタンパク質の膜透過、膜組み込みの分子機構を解明するため、ミトコンドリア外膜トランスロケーターTOM40複合体、SAM複合体の構造解析を試みた。TOM40複合体のチャネルを形成するβバレル型チャネルタンパク質Tom40については、酵母由来Tom40の大腸菌を用いた大量発現系を構築した。酵母近縁生物種由来のTom40ホモログや、可溶性領域のディスオーダー部分を欠損させた変異Tom40を作成し、数種類の界面活性剤を用いて条件検討を行ったが、現段階において構造解析に適した均一な試料は得られていない。また、SAM複合体のチャネルを形成するSam50については大腸菌膜画分への蓄積が見られず、封入体からの回収・リフォールディングを試みたが、結晶化に適したサンプルを得るには至っていない。 そこで、単分散性が高く構造解析に適したネイティブのサンプルを調製するため、TOM40複合体の構成サブユニットTom22にヒスチジンタグを導入した酵母株を作成し、分画したミトコンドリア膜からTOM40複合体を精製した。生化学的な解析により、精製TOM40複合体はチャネルサブユニット(Tom40)、レセプターサブユニット(Tom22、Tom20)、さらには補助的なsmall Tomサブユニット(Tom7、Tom5)を含む膜タンパク質複合体で、タンパク質膜透過の際のactive formである三量体を形成していることが示唆された。最終的には約15 Lの培養酵母細胞から、100μg弱のTOM40複合体を得ることに成功した。今後はLCP法によって結晶化条件の探索を行う。また、ネガティブ染色による電子顕微鏡単粒子解析においては、三回対称構造を持ち3つの孔を有するTOM40複合体を観察することに成功しており、同時にクライオ電子顕微鏡を用いた構造解析も進めていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
膜タンパク質複合体のX線結晶構造解析を行うためには、均一で安定なタンパク質試料を大量調製する必要がある。本研究課題においては、TOM40複合体、SAM複合体のチャネルを形成するサブユニットTom40、Sam50の大腸菌での大量発現系の構築を試みた。Tom40については、大腸菌外膜へ大量に蓄積させることに成功したが、可溶化・精製過程においてタンパク質の凝集・変性が起こり、結晶構造解析に適した均一な試料を調製することは困難であった。その理由として、大腸菌で発現させたTom40は正しくフォールドしていない可能性が考えられたため、酵母を用いた精製系によって均一な試料調製を試みた。その結果、均一性の高いTOM40複合体を機能複合体として調製することに成功した。しかし効率良く結晶化条件を探索するためにはタンパク質収量が少なく、結晶化スクリーニングと並行して、高収量でTOM40複合体を精製できる条件を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
酵母を用いた精製系において均一なTOM40複合体の精製に成功したため、今後はLCP法を用いた結晶化スクリーニングによって結晶化条件の探索を進めていく。また、効率良く結晶化スクリーニングを進めるためにはTOM40複合体の収量を増やすことが必要であり、精製条件やコンストラクションの最適化についても同時に進める。 近年、クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析によってタンパク質複合体の高分解能での立体構造決定が可能になってきており、大きな注目を集めている。本研究課題においても、X線結晶構造解析と並行して電子顕微鏡単粒子解析を始めており、すでにネガティブ染色によって三回対称構造を持つTOM40複合体を観察することに成功している。さらに、得られたTOM40複合体の電顕像ではミトコンドリアタンパク質の通り道と考えられる3つの孔が観察され、精製TOM40複合体は電子顕微鏡解析に適した均一で安定な試料であることが示唆された。今後はクライオ電子顕微鏡を用いた構造解析を進めることで、TOM40複合体の早期の立体構造決定を目指す。
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