ERK MAPキナーゼ経路は細胞増殖や分化を制御するシグナル伝達システムである。ERKが様々な遺伝子の発現を亢進させることはよく知られているが、近年、特定の遺伝子発現を抑制する機能も併せ持つことが分かった。しかし、そのメカニズムや生理的意義は不明である。当研究室では、独自に開発したスクリーニング法を用いて、ERKの新規基質分子MCRIP1を同定することに成功した。これまでの結果から、MCRIP1が転写共役抑制因子CtBP の機能調節を介して、ERK依存的遺伝子発現抑制(ERK-induced gene silencing)に寄与することを明らかにした (Mol. Cell. (2015))。CtBPは、個体発生、分化、代謝等多くの生命現象の制御に関わることも知られている。そこで、個体レベルにおいてMCRIP1の生理機能を解明するため、MCRIP1遺伝子欠損マウスを樹立した。 本研究では、MCRIP1欠損マウスの表現型及びその分子メカニズムを同定することを目的として研究を行った。 MCRIP1遺伝子欠損マウスの表現型解析を行った結果から、MCRIP1は個体発生や特定の臓器の分化に重要な役割を果たしていることを見出した。また、MCRIP1欠損マウス新生児の全身組織を用いて、免疫組織染色による詳細な病理学的解析及び生化学実験を行った結果から、ホモ欠損マウスで観察された表現型の原因を特定した。さらに、MCRIP1による発現制御機構に関して分子レベルで解析を行い、MCRIP1がCtBPの機能調節を介して、特定の臓器において特異的に発現する分子の転写をエピジェネティックに制御していることを明らかにした。
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