研究課題/領域番号 |
15J07721
|
研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
石原(安田) 千晶 和歌山大学, 教育学部, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
|
キーワード | オス間闘争 / 個体識別 / 劣位個体の意思決定 / 評価戦略 |
研究実績の概要 |
本研究は、ヤドカリのオスが (i) メスをめぐるオス間闘争、あるいは (ii) 強度の低い小競り合いのような通常の相互作用から優劣を構築し、劣位個体がそれに基づいた個体識別を確立して、同じ優位個体と再遭遇した際に闘争を避けるか、また、そのようにして確立した個体識別が、再遭遇時に個体の状況が変化することで、より速やかに破棄されるかを検証するものである。 本年は、主たる対象種であるユビナガホンヤドカリにおいて、オス間闘争と繁殖生態に関する基礎的な知見を収集した。オス間闘争については、野外にて採集した交尾前ガードペアを用いた室内実験より、本種の大鋏脚が実質的な強さを兼ね備えた正直な指標として機能すること、また挑戦者が闘争前に自らと相手を比較する相対評価を行うことが示唆された。研究員は本研究について精力的な学会発表を行い、国際誌に原著論文を投稿中である。繁殖生態については、調査地における本種の繁殖期を特定し、さらに一腹卵数と卵径に経月変化があることを明らかにした。本研究は共同研究であり、成果の一部は研究員を対応著者として国内誌に投稿中である。 また、本種の挑戦者が以前のオス間闘争で敗北した相手を識別できるか検証するため、前述の研究を踏襲した闘争実験を実施し、敗北経験のある挑戦者を (i) 闘争経験のない見知らぬ相手、(ii) 別の挑戦者に勝利した相手、(iii) 同じ相手のいずれかと遭遇させ、行動を撮影した。さらに、個体識別の継続時間について検証するため、敗北から1日経過した挑戦者を (iv) 前日に敗北した相手 (ただし、メスの成熟度が進むことを考慮し、争うメスは当日に採集した別のペアのものとした) とも遭遇させ、同様にデータを収集した。本種の繁殖期は年度をまたぐため、本研究はデータを収集・解析中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、前述の通り、ユビナガホンヤドカリのオス間闘争と繁殖生態に関する基礎データの収集を完了し、次年度以降の研究を遂行する上での基盤を固めた。本種は、ホンヤドカリ属の中では比較的生態学的な知見の乏しい種である。しかし、本種の大鋏脚がオス間闘争中の評価に重要な影響を及ぼす、という本年度の成果は、個体識別が大鋏脚によって行われることを期待している本研究課題と、本種の相性が非常に良いこと意味している。したがって研究員は、本種を対象として、次年度以降も本研究課題を円滑に行えると考えている。さらに、成果の多くは既に学会にて発表し、国内外の学術雑誌へ原著論文として投稿するに至っている。本研究の主たる課題である個体識別能力の解明についても、既に十分量の動画データを収集し、現在解析中である。次年度中には本成果を学会にて発表し、原著論文として国際誌に投稿することを目指している。以上を踏まえ、本年度の区分を (2) とした。
|
今後の研究の推進方策 |
前述の通り、まずは、ユビナガホンヤドカリのオス間闘争を介した個体識別の確立について、得られたデータのより詳細な解析に努め、成果を学会で発表して、国際誌への論文投稿を目指す。また、次年度は “通常の相互作用 (本研究では、オス間闘争のように明確なイベントを介するのではなく、同じ個体を繰り返し遭遇する中で発生する、強度の低い小競り合いのような相互作用を、通常の相互作用と定義する)” によっても本種が優劣関係を構築し、それに基づいて個体識別を確立できるか検証する。 さらに、本種のオス間闘争において大鋏脚が強さの評価指標として機能し、闘争の勝敗に顕著な影響を及ぼすことを踏まえ、通常であれば個体識別が継続している期間に、大鋏脚を実験的に自切させた優位個体と劣位個体を再遭遇させる実験を実施する。大鋏脚を失ったオスは強さが著しく低下するため、本実験により、劣位個体が再遭遇時に相手の強さに関わる情報を速やかに更新し、過去の強さに基づく個体識別を破棄するか否かを検証する。
|