室温で非晶状態の高分子は、透明性が要求される工業分野において非常に需要が強い。近年での非晶性高分子の主な用途は、その透明性を活かした光学フィルムや無機ガラスからの代替である。透明性を維持したまま剛性を向上する方法として、古くから逆可塑化という手法が知られている。逆可塑化とは、一般的な可塑化とは異なり高分子の自由体積が埋まることで弾性率が上昇する現象である。これまでは有機低分子化合物のみが逆可塑化剤として報告されてきたが、本研究では新たに塩でも逆可塑化が生じることを見出した。さらに、有機低分子逆可塑化剤を添加すると一般的な可塑剤と同様マトリックスポリマーのガラス転移温度(Tg)は低下するが、塩を添加すると上昇することが判明した。本研究ではマトリックスポリマーとしてポリメタクリル酸メチル(PMMA)を用いた。 PMMAに特定の塩、例えばLiCF3SO3(LiFMS)を10 wt%添加するとPMMAのTgは15 ℃程度上昇する。静電相互作用による分子鎖セグメントの運動の抑制がその原因と考えられ、赤外吸収スペクトルのピークシフトからも本機構は示唆される。一方、溶融状態で粘弾性測定を行うと終端領域が観察されることから、静電相互作用はTg近傍の温度域でのみ強く働いていることが判明した。塩のカチオンをリチウムイオンに固定してアニオンを変えたところ、本実験範囲においてリチウム濃度が同じならばアニオンはPMMAのTgに影響しないことがわかった。さらに、塩のアニオンを過塩素酸イオンに固定してカチオンを変えると、価数の大きいマグネシウムイオンの方がリチウムイオンよりもPMMAと強い相互作用を示した。これはCoulomb相互作用を考えると理解できる。
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