研究実績の概要 |
ミストCVD法は、安全な原料を用い非真空プロセスにより酸化物半導体薄膜の成膜が可能な点で優れた技術であるが、同時に原料の種類や成膜条件によって反応経路の制御が可能な点で特徴がある。本研究は、雰囲気の酸化・還元性や新材料の利用によって化学反応の経路を制御し、薄膜の高品質化を達成する基盤技術の確立を目的とした。 まず、酸化スズに注目した。酸化スズはSnの価数の異なるSnOとSnO2との組成を持つが、SnOはp型伝導を示し、酸化物半導体のpn接合形成に重要な材料である。しかし、この価数制御は困難で、多くの場合酸素リッチのSnOとなる。本研究では原料にNH3を加えて還元雰囲気とし、酸化を抑制するよう化学反応を制御することで、10^15cm-3台のp型伝導を実現しえた。また、ラマン分光やXPSによりSnが2価をとることを立証した。 引き続きコランダム構造の酸化ガリウム(Ga2O3)の結晶成長を対象に研究を進めた。ミストCVDではn型伝導の実現のためにSnのドーピングが一般的であったが、Snの失活という問題があった。そこで、Ga2O3の形成反応と並行して分解が生じSiのドーピングが可能となるような原料を探索し、これを用いることでSiのドーピングに成功した。 しかしながら、Ga2O3中のSi濃度が低い場合にはSiが活性化せず伝導に寄与しないという問題があった。そこでキャリアガスにO3を用いて膜中でのSiの活性化を進めることを考えた。O3によりSiが膜中に混入する化学反応経路が制御され、より微量のSiが活性化してn型伝導に寄与した。 Ga2O3のn型伝導が得られたことから、これをヘテロ接合デバイスに応用するため。(Al,Ga)2O3/Ga2O3ヘテロ構造の作製、オフセットの解析を行った。その結果、ヘテロ構造デバイスにふさわしいタイプI型のオフセットが確認され、今後のデバイス展開への指針が得られた。
|