研究課題/領域番号 |
15J07857
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大塚 慶吾 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | カーボンナノチューブ / 電界効果トランジスタ / 精製処理 / ナノスケール燃焼 |
研究実績の概要 |
カーボンナノチューブ(CNT)をトランジスタなどの電子デバイスに応用することで,従来の材料と比べて高速・低消費電力を実現したり,透明・柔軟といった新しい機能を付加したりすることが期待できる.そのようなポテンシャルを生かすには,電子構造が大きく異なる二つのタイプのCNT(金属型,半導体型)のうち,半導体型のみが高密度に並んだ構造を用意する必要がある.当該年度は当初の予定通り,金属型CNT選択除去技術の向上とそれによるデバイスレベルでの特性評価を中心に研究を行った.前年度までに有機薄膜と水蒸気によってCNTの燃焼が大きく促進されることを見出し,そのメカニズムを詳細に調べた.しかし,実際の精製技術としては金属型CNTを完全に除去することができておらず,得られる純度は実用的なレベル(論理回路ならば>99.9999%)には届いていなかった.そこで,技術的な課題を一つずつ改善することによって,純度が極めて100%に近い半導体型CNTの構造を得ることに成功したため,そこから多数のトランジスタを作製し,それらの特性が従来手法と比較しても優れていることを確認した.この結果は,単一素子レベルで得られていたCNTトランジスタの高い性能を,大規模な回路においても得られるようにするものであり,CNTに基づいたエレクトロニクスの発展に大きく寄与するものと考えられる.これらの研究成果について,国内外の学会発表を行うとともに,関連する論文が国際誌に出版された.最新の成果についても論文の投稿準備を進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
単層カーボンナノチューブをシリコンに代わってコンピュータプロセッサなどの高性能論理回路に応用するにあたり,基板上に直接合成した水平配向カーボンナノチューブアレイから不純物となる金属カーボンナノチューブを選択的に除去する研究を行った.基板上のカーボンナノチューブを有機薄膜で覆い水蒸気を多く含む環境下で自己ジュール熱により酸化させることで,発熱の大きい金属カーボンナノチューブのみを長尺にわたって燃焼させることができることがわかった.さらに除去プロセスを支配するカーボンナノチューブの燃焼現象を詳細に分析したことによって,金属カーボンナノチューブの完全な除去を阻害する要因を明らかにした.ここではカーボンナノチューブを切断した際に得られるナノギャップを電極として用いる研究が派生的に関与している(Nanoscale,2015, 8, 16363.).そこで見出された現象を精製処理に取り込むことで,金属カーボンナノチューブの全長除去を実現し,それによって一定領域に半導体カーボンナノチューブだけを用意することができるようになった.その領域内に多数のトランジスタを作製したところ,いずれも高い性能を示し,特に従来手法では作製が困難であった短チャネルのトランジスタにおいても性能の劣化を示すことなく,カーボンナノチューブ電子デバイス応用における新たな精製方法を提示することができた.
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今後の研究の推進方策 |
合成の観点からは,本精製手法を適用して実際に高性能トランジスタを集積することを目指し,長尺で高密度なカーボンナノチューブの合成法を模索する.その基盤として,単一のカーボンナノチューブの成長速度や寿命,触媒からの成長確率などを詳細に分析することを検討している.これまでカーボンナノチューブの集合体としての垂直配向膜などの平均の成長速度の報告は多数あるが,単一のカーボンナノチューブに関する研究は極めて限定的であるため,様々な構造(カイラリティ)や合成条件においてミクロな分析を行う.また,電子デバイスにおいてはカーボンナノチューブ同士の間隔が一定であることが要求されるため,ボトムアップ的手法によって制御する方法を模索する. 一方で精製手法の観点からは,その過程で半導体カーボンナノチューブに及ぼされるダメージを分析し,それをもとにダメージ軽減策を検討する.例えば,金属カーボンナノチューブを除去するのに必要な高電圧印加がダメージの大きな原因であるため,より低電圧化できるように構造やプロセスの改善を行う.最終的には,これまでに開発した精製手法と併せて高密度な半導体カーボンナノチューブアレイを用意し,電子デバイスへの応用を行う予定である.
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