研究課題/領域番号 |
15J07958
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小松田 麦子 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 縫線核 / 扁桃体 / コルチコステロン / 過食 / 副腎 / 下垂体 |
研究実績の概要 |
1. 自由走行運動が摂食量を正常に保つ機構にかかわる脳部位を明らかにするため、c-fosの免疫染色を行ったところ、走行運動可能な飼育環境下では縫線核と扁桃体という快不快や情動行動に関わる部位が活性化することが判明した。さらに関与する具体的なニューロンや物質を明らかにするため、この2部位のサンプルを用いたマイクロアレイ解析を行い、候補として23遺伝子を同定した。 2. ヒト成長ホルモン遺伝子導入ラット(TG)が過食と共に顕著な内臓脂肪の蓄積を伴う肥満、筋萎縮、皮膚の菲薄化を示すことから、グルココルチコイドの過剰分泌を疑い、またこれが過食に与える影響について調べた。TGの血清中コルチコステロン濃度は200 ng/mlを超える高値であり、両側性の副腎肥大が認められた。そこで下垂体性のクッシング病を疑い下垂体機能を解析したところ、TGでは重量がWTラットの約半分という重度の萎縮が起きていながら、組織のACTH陽性面積は減少しておらず、血中ACTH濃度は野生型(WT)の間に差がなかったことから、ACTH分泌能はWTと同程度に保たれていることが分かった。さらに視床下部のCRHの遺伝子発現量は変化していなかった。以上の結果からTGラットは高コルチコステロン血症であり、対してCRHやACTHの産生分泌能が抑制されていないことから中枢性のクッシング症候群であると考えられた。 グルココルチコイドは摂食量の調節にも関与し、クッシング症候群患者の摂食行動異常も報告されている。そこでTGの過食との関係を検討するため、副腎を摘出して内因性のコルチコステロンの産生を廃絶させたところ、TGの過食は抑制され、WTと同程度の正常な摂食量が維持された。また、このラットにコルチコステロンを継続的に投与したところ、一度消失した過食が再発した。この結果から、TGの過食の発症にコルチコステロンが関与していることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
走行運動の摂食調節機構に関わる脳部位の候補を探索し、またこれに関わる遺伝子の候補を挙げることができた。 また、グルココルチコイドの摂食量調節作用という新しい着眼点から、当初の計画とは異なる切り口で、動物の摂食行動調節のメカニズムにアプローチできた。この1年で得られた結果を国際学会および学術論文として発表する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
縫線核と扁桃体で見つかった、摂食量調節に関わる可能性のある遺伝子群に対して、WTのサンプルとともに遺伝子発現量を比較する。 自由走行運動による摂食量調節機構と、コルチコステロンによる摂食量調節機構が共通の経路を通じて摂食量を制御しているという仮説に基づき、走行運動がTGラットの過食を正常化するメカニズムについて、主にコルチコステロンの働きに注目しながら研究を行う予定である。
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