研究課題/領域番号 |
15J07975
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研究機関 | 桜美林大学 |
研究代表者 |
鳥山 純子 桜美林大学, 人文学, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 中東 / インターナショナルスクール / 移動 / エジプト / レバノン / 教育 |
研究実績の概要 |
研究二年次となる本年度は、主にエジプトでのフォローアップ調査とレバノンでの聞き取り調査の実施、さらに昨年度に引き続き、アラブ圏における教育、および、エジプト、レバノン、アラブ首長国連邦における近年の民族誌を対象とした文献サーベイを行った。 とりわけ力を入れたのが、レバノンにおける教育制度の解明である。これについては、文献による国家制度としての学校教育の解明と、保護者の学校選別プロセスを対象とした、教育機関利用者の視点からの教育制度の解明という二つの視覚によるアプローチをとった。具体的には、昨年度末にインタビューを行った学校についての書籍、およびウェブ資料を用いた詳細なデータの収集、さらに現地における学校評価の収集と、保護者を対象とした半構造化インタビューを行った。 こうした調査を通じて、レバノンでは、町の規模がエジプトに比べてはるかに小さいにも関わらず、居住地域の近くの私立学校を選択する可能性が高いこと、一度入れた学校を途中で変更することはほとんどないこと、また近年では学校での使用言語の人気が、キリスト教徒の中でもフランス語から英語にもシフトしつつある傾向を確認することができた。 これらの分析は、レバノン都市周辺部における学校制度の実態を明らかにすると同時に、エジプトの教育制度の特殊性をあぶりだす効果ももたらした。こうした研究活動を通じ、今後は、こうした中東的特殊性、あるいは中東内でみられる差異が形成されるにいたった流れや要因について考察を深める必要が明らかになった。 また本年度は、現地調査と並行して、これまでの成果を発信することにも力を入れた。9月には、モンゴルで開かれたアジア中東学会で、また3月にはフランスで行われた、みんぱくEHESS合同のシンポジウムにおいてエジプトの学校の事例から得た知見について発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、主に聞き取り調査を中心としたフィールドでのデータ収集に着手することができた。その結果、昨年度明らかになった、インターナショナルスクールの発展過程の違いが、現在での学校間競争の様相にも大きな違いをもたらしていることを明らかにすることができた。 同じ有名学校教育グループが運営する学校間に、ここまで国ごとに社会的意味づけや社会的ポジションに違いがあることは、これまで研究においても、また当事者である学校グループにおいても明文化されたことのない知見であり、これらは保護者を対象としたインタビューを実際に行って初めて得ることのできた知見といえる。こうしたデータは、さらに広い文脈につながる形で議論を展開できれば、教育論のみならず、エジプトとレバノンの社会論や階級論においても重要なものとなるだろう。 また本年度は、レバノンでの調査を実施するにあたって、(国立)レバノン大学の社会科学研究センターの協力を仰ぐことができた。センターには、インタビュー実施にあたり、インフォーマント選定やインタビュー場所の提供において協力していただいたばかりか、大学院の授業で、本研究とその手法についての発表機会をいただくことにより、現地で暮らす大学院生に(その中には子どもを学校に通わせている保護者も含まれる)、日常生活の知識に基づきインタビュー方法やその項目について有益な助言を得ることができた。こうしたネットワーク形成を通じてレバノンにおける調査地盤を築くことができたことは、今後追加調査実施、あるいはデータ分析段階における意見交換という点において重要な資源となるだろう。 ただし本年度は、調査準備における調整がスムーズにいかず、実施を予定していたアラブ首長国連邦での現地調査を行うことができなかった。この点については現地での協力研究者を広く募るなどして対策を講じたい。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる2017年度は、主に①アラブ首長国連邦における聞き取り調査、②3か国で得ることのできたデータの総合的な分析、③これまでに得た知見の発表を行う。 具体的には、夏季にアラブ首長国連邦での聞き取り調査を実施することを目指し、年度初旬から広く現地の研究協力者を募る。時間的制約から、対面での聞き取り調査に加え、アンケート調査を平行して実施する可能性を探る。また一年次と二年次に得ることができた研究成果について、初年度に行った文献サーベイの知見と統合し、まずエジプト、レバノンそれぞれの国ごとの議論を単独の論文として刊行する。その上で、アラブ首長国連邦での成果も取り入れた形で三カ国の国際比較を扱う論文執筆に着手する。三カ国比較の中心となる分析については、9月の韓国中東学会において発表し、議論の精査を試みる。
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