今年度も引き続き超局所層理論のシンプレクティック幾何への応用について研究を行った.今年度は主に次の二つの研究を行った. (1)余接束のコンパクト完全ラグランジュ部分多様体の斉交叉の全ベッチ数を層理論的に評価する研究:余接束のコンパクト完全ラグランジュ部分多様体に対しては,Guillermouが層量子化と呼ばれる標準的な層を構成している.この研究ではTamarkin圏での層量子化の間のHom空間の次元はラグランジュ部分多様体の斉交叉の共通部分の全ベッチ数の下限となることを示した.証明には超局所層理論において有効に用いられているμhom函手を用いており,退化した交叉を持つ場合にもμhomで計算可能な連結成分からの寄与の和がHom空間の次元で下から抑えられるという主張に拡張できる. (2)余接束のコンパクト部分集合のdisplacement energyを層理論的に評価する研究:二つのコンパクト部分集合に対するdisplacement energyを下から評価する新たな層理論的な手法を提案した.これはTamarkinの定理をエネルギー評価付きに拡張したものとみなせる.証明のためにTamarkin圏にtranslation distanceという擬距離を導入し,層のハミルトン変形はtranslation distanceをハミルトン関数のHoferノルム以下だけ変化させることを示した.translation distanceの導入は最近の柏原とSchapiraによるパーシステント加群間のinterleaving distanceの層理論的解釈に動機づけられていて,彼らの擬距離を改良してTamarkin圏に移植したものともみなせる.
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